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最も重要なのは、明確なルールの公平な運用 - 堀内 剛史(古文)

古文講師  堀内 剛史

― 先生が授業の際に、意識しているポイントは何でしょうか。

  • 高校2年生を指導することが多く、「文法を解釈に活かし、正しい現代語訳を作る」ということをきちんと教えたいと考えています。1年生後半から2年生の1学期にかけて学習する助動詞・敬語は古文の解釈の要です。その文法知識をどのように読解・現代語訳の際に活用するかを伝えることで、古文の成績向上につながると考えています。
    生徒は「読解問題は単語、文法問題には文法」というように、文法と読解を別々に考えていることが多いです。例えば助動詞の「む」というのは訳さなくても表面的にはあまり影響がありません。「む」を授業で扱うと、多くの生徒が「む」を無視した現代語訳を作ってしまいます。しかし、入試ではこの「む」を反映した答案を作成することが重要です。このギャップを埋めることを意識して教材を選択しています。
    古文文法は英文法と異なり、全てが積み上げ型です。英語の関係代名詞と仮定法は全く別の単元ですが、古文の助動詞の活用表は必ず動詞の活用表と関係があります。前の単元が理解できていないと、後々の致命傷につながる可能性が高いのです。助動詞が分からない生徒は多くの場合、動詞にも穴があります。その場合は生徒が理解している部分まで遡って、一つずつ完璧に理解させながら進めるようにします。また助動詞は複数の意味を持ちますから、意味の区別については、それぞれの用法の短文に加えて識別用の公式を示し、丁寧に解説するように意識しています。

― 授業の準備について具体的にお伺いします。

  • インタビュー風景担当している「高2標準国語」を例に挙げてお話しします。この授業では、前半に文法の解説を行い、後半にその文法を含む文章の読解を行います。
    授業ごとのポイントを考えながら準備するので、ポイントが重複しないように、3回程度先までの授業内容を意識します。代ゼミのテキストや高校生向けの教科書・資料集に加えて、日本古典文学全集や日本古典文学体系、新編国歌大観も参考にしますね。
    自分でテキストを作成している授業に関しては、内容が頭に入っているので1週間前に準備を行います。2年生向けの自作テキストを使用する授業ですと15分位で準備できますが、別の方が編集した国公立大学2次試験レベルの問題を扱う授業ですと、90~120分位は時間をかけて準備をします。30~60分位である程度の答案を作り、残りの時間をより良い答案を作るためや、生徒の誤答例・減点されるポイントなどを考える時間に費やします。マーク形式の問題を扱う授業と記述形式の問題を扱う授業では予習にかかる時間が大きく違いますね。
    板書やノートのアイデアについては、授業前に準備したものもあるのですが、実際には生徒の状況によってある程度調整しています。また、高校2年生の授業の場合は、最低でも一人一回は授業中に指名し、内容についての復習的な確認をします。仮に生徒が分かっていなかった場合は、その部分をもう一度板書しますので、予定通りの板書だけをすることはありません。特に2年生であれば、生徒の理解状況に応じて、同じ内容を2回・3回と板書しても良いと思います。

― かなり復習を重視されるのですね。何か理由があるのでしょうか?

  • 予習よりは復習の方が重要だと考えています。予習2割に対して復習8割くらいが良いバランスですね。特に2年生で初めて学習する単元で予習するのはあまり意味がありません。予習で理解しても、復習して理解しても理解できたという結果は一緒ですから、僕の授業では生徒には、「15分位でテキストに簡単に目を通しておくように」とだけ指示しています。
    初めての単元の予習だと、生徒一人の力では分からないこともありますので辛いと思います。前日に予習をさせて、分からないまま授業までをモヤモヤして過ごさせるより、「授業中に発問→ここが分からないよねと誘導→すぐに解説」の流れのほうが、生徒の分かったという感覚が強くなり、生徒の印象としてもキャッチーだと思います。
    復習の方法についてもかなり細かく指示を出します。まず、問題の解き直しです。次に授業で扱った単語と文法を覚えさせます。特に、知らなかったものは重点的に暗記するように指示します。最後に、授業のポイントになる部分の文章を、文法を意識しながら、一字一句正確に現代語訳させます。
    以上の復習をさせた上で、次の週に同じ文法を含む、別の文章の現代語訳を扱います。例としては仮定・婉曲の「む」を扱った授業の次の週に、再び仮定・婉曲の「む」を含む別の文の現代語訳をさせます。いわゆる類題ですね。
    僕の場合は、翌週、1ヶ月後、次の学期と3回のリズムで、生徒に復習内容の発問をしています。

― では、具体的な授業の流れをお伺いします。

  • 最初の5分は前回の復習内容の小テストです。文法事項や該当箇所の訳を確認します。その後、30分かけて新しい文法単元の解説をして例題を扱います。その後に10~15行程度の長文を題材にして、10分程度の演習と解説を行います。高校の授業時間ですと、月曜日に文法の説明、火曜日に読解というように分けてしまっても良いと思います。
    授業を受けている生徒から、「学校の授業では、長文中から文法を拾うから頭に残らない。例えば、〈授業中にこの部分の『む』は仮定・婉曲の意味ですね〉と文法を拾い上げてはくれるけど、なぜそうなるのかは説明してもらえない」と相談されることがあります。(実際は、きちんと学校で説明されているものの、生徒が覚えていない可能性が高いとは考えていますが…)
    この意見を聞いて、僕は、逆に「文法はこうだから、長文中でこの文法を見つけたらこうしよう・こう訳そう」という流れで授業をしています。僕の教え方は理系っぽいとよく生徒から言われますね。大学生の時にアルバイトで講師をしていたのですが、その時に色々と試して、このスタイルにたどり着きました。とにかく文章を読ませる、単語を重視するなどの工夫もしてみたのですが、結局、多くの生徒が困っているのは文法だったのです。
    時間の面でも、文法から指導に入ることをおすすめします。読解で生徒に理解を実感させるには30分以上時間が必要ですが、文法であれば15分も解説すれば、「そういうことか」と生徒は納得してくれます。古文の中で生徒に成功体験を与えやすいのは文法だと思います。

― 生徒に問いかける際に工夫していることはありますか?

  • インタビュー風景完全に古文に興味がない生徒は、反応も少ないので難しいですね。まず問いかけに反応してくれる生徒を指名します。生徒が答えを間違ってしまった場合にも、うまく教室を笑わせて、その笑いの雰囲気の中で、古文に興味のない生徒も指名していきます。具体的には、生徒が間違えた際に「TBS さんまのスーパーからくりテレビ」でよく使用されていた「ナイスボケ」というフレーズを使います。「笑いになったからOK」「面白かったから今のは正解」のように声をかけて、間違えてしまった生徒が気分を害さないように配慮しています。もちろん正解だった場合は「おまえすごいやん」としっかり褒めます。
    古文はあまり実生活で役に立つ感覚がないので、教科に対して興味を持たせるのが難しいです。①分かった(=点がとれた)という体験で興味を持たせる、②授業が面白かったと興味を持たせる、③僕(=先生)に興味を持たせる。クラスごとにアンテナを張って、この中のどれかの方向に誘導しようと考えています。仮に古文に全く興味を持てない生徒がいたとしても、教室の大半の生徒が問いかけに反応する状況であれば、答えないことが恥ずかしいという空気になるので、全員が問いかけに反応してくれるようになります。
    授業を担当する最初の時期ですと、まず授業中に笑顔が出る生徒から指名しますね。完全に無視されるとどんどん空気が悪くなってしまうので…。ある程度、授業が進むと古文が得意な生徒が見つかりますから、その生徒を当てた際に「今の時期ならこのくらいはできていてほしいところだね」と言ったりもします。その生徒を褒めるのに加えて、他の生徒の競争意識を刺激して、モチベーションUPにつなげる狙いです。
    生徒に問いかける際には、なぜその答えなのか・訳なのか必ず理由を聞きます。「わかりません」「さあ?どうしてでしょう?」で逃げようとする生徒もいますが、「許しません」「逃しません」と返して絶対に答えさせます。大人になれば発言に対し、必ず理由を求められますから大人へのトレーニングですね。最初は答えられませんが、授業が進むと答えられるようになります。

― 3年生の指導について、意識すべきポイントは何でしょうか?

  • 特にレベルが低めの層には演習量を増やすようにします。2年生の内容を、2年生の時の2~3倍の量でもう一度演習させて、定着した後で長文を扱うようにしています。ハイレベル層は文法演習を自分でしているので、最初からどんどん長文演習を扱います。

― センター試験対策の授業をする際のポイントは何でしょうか?

  • 問1の単語と問2の文法は、知識量の影響を受けますので、文系の生徒はある程度点がとれますが、理系の生徒は苦手にしているケースが多いです。文系と理系の生徒が同じ授業を受けている場合、知識量で差がつくトピックを扱うのは難しいですね。
    文系と理系どちらの生徒も行き詰まるのは、問3~5の読解問題です。「この部分をどうすれば速く正確に解答できるのか」という点を掘り下げると、文系理系共通の悩みに行き着きます。センター試験における生徒の悩みの多くは「時間が足りない」ですから、どうすればスピードがつくかは話すようにしています。

― 最近あまり辞書を引かない生徒もいるようですが、どう思われますか。

  • 正解はないと思っていますが、僕は生徒にあまり辞書を使わせません。僕が英語の講師であれば辞書を使うことを推奨しますが、古文のセンター試験に必要な単語は単語帳に出てくる300語程度です。300語を武器にして読むという意識も重要ですし、訳せない場合は、「単語帳レベルの単語は覚えなくてはならない」と認識して貰う必要がありますから、特に2年生ではあまり辞書を引かせないようにしています。
    勿論、単語帳がカバーしていない単語が出てくる時期になれば、辞書を引かなくてはなりませんが、日常的に辞書を引く習慣があると、分からなければ辞書を引けば良いと考えて、単語を覚えない生徒がいます。
    僕は「辞書を引かなくてよいが単語は覚えよう」と生徒に言っています。僕自身も高校時代には、辞書を引くように指導を受けています。しかし、古文の学習を始めた段階はまったくもって構わないですが、受験を目標に置いた場合には、実際の受験会場で使用できないツールを活用するのはずるいと感じています。

― 最後に全国の先生方へのアドバイスをお願いします。

  • 最初にルールをきちんと作り、明確化すると授業運営がやりやすくなります。
    僕は、「単語や文法について授業中に問いかける内容は授業中で扱ったものだけです」と生徒にきちんとルールとして説明します。こうすると「答えられないということは復習が十分でない」という認識を生徒が持ってくれます。長文中で扱った単語については、授業ごとにメモするようにしています。たまに授業で扱っていない内容をわざと問いかけて、生徒が「それは授業でやっていません」と答えたら「正解」と褒めたりもします。
    授業をする際にはグレーゾーンを作らず、きちんとしたルールを示すことが重要です。例えば先程の、「授業中に問いかける内容は授業で扱ったものだけ」というルールを曖昧にしてしまうと、生徒は復習しなくても大丈夫と考えてしまう可能性がありますし、一度例外をつくると「あの子はよくて私は駄目なのか」といった不満にもつながります。
    僕は、授業を成績向上につなげるには、きちんとしたルールの存在は欠かせないと考えています。大切なのは生徒にきちんとルール説明し、例外をつくらず平等に運用することです。
    ルールが複数というのも厄介ですから、なるべくシンプルで・目に見え・分かりやすいルールをひとつ作り、工夫して運用してください。

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聞き手:福田