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生徒の学力を向上させるポイントは、数学の本質を伝えること - 貫 浩和(数学)

数学講師  貫 浩和

― 授業の準備をする際、どのようなことを意識されていますか?

  • 数学力を上げるためには、生徒が自分自身でどうすれば答えを導き出せるかを、試行錯誤してみることが大切だと思っています。自分で考えて出てきた素朴な疑問が、問題を解いたり、定理や公式の証明をすることに繋がってゆくからです。その意味で、授業では、生徒と共に思考する要素を必ず入れるよう心掛けています。その上で、実際に何を話すかを考えます。話す内容は比較的すぐ思い浮かびますが、これは昔考えた蓄積が役に立っていると思っています。

― 昔考えた蓄積とはどのようなことでしょうか?

  • インタビュー風景代ゼミ講師になり5年目ぐらいまでは、例えば90分1コマの授業に対する予習の分量は、3~4時間かけるのが普通でした。それくらいに、教え方のアプローチの手法については色々考えました。入念に準備した上で授業をして、それでも生徒に上手く伝わらなかった箇所については、改善の余地があると思ったので反省しました。生徒が間違えやすいポイントを把握した上で、教え方を考えてゆきましたね。その積み重ねです。また、教え方のアプローチを定着させるために、色々な先生の話を聞き、自分と他人のやり方を比較し、考えることも積み重ねていきました。

― 授業の準備について具体的にお伺いします。何か取り組まれていることはありますか?

  • “実験”を行うことです。例えば数式の中にxとyがあったとしたら、いくつかの数値をxとyに代入し、計算結果の法則をメモで書き出します。初学者向けの授業であれば、彼らがどのような法則を導き出すか想定しながら行います。そうした“実験”をすることが、数式の法則性や性質、特性を見極め、知ることに繋がりますし、解答の糸口を探すことにもなると思います。勿論、想定を超えるやり方をしてくる生徒もいますが、そういうときに数学の面白さを感じたりもします。準備の時期については、比較的直前になって始めることを心掛けています。1回準備したから大丈夫だろう、という安心感があると、授業後に反省点が出てくることがよくあったからです。例えば、話そうとしたことを忘れたり、挟みたかった話題を飛ばしてしまうことがありました。そのため、準備のスタートは、なるべく授業の近い時期にするよう心掛けてはいますね。

― 教材を作成する際に心掛けていることはありますか?

  • 教えなくてはならないテーマを必ず決めます。教材は、数学で核となるテーマをしっかり演習できるようなものであることが大切です。例えば三角関数を学ぶ場合の核は、加法定理。この根底の部分こそ、生徒1人ではできない箇所だと思うので、そこを紹介するための問題を用意して、授業で解説します。勿論、分量をこなすことも大事だと思いますが、それは思考の仕方が分かった後の方がよいかな、と思っています。最初からやみくもに分量を増やしても、応用が利かず、能率が悪くなり、本当の学力向上には繋がりにくいと思うからです。ですから、各単元にそれぞれある核の部分を、徹底的に紹介して、思考の仕方が掴めたら、その仕方を使って解く問題を演習教材として与える、という流れで授業ができるよう準備しています。教材作成をしていると、自分にふさわしい授業スタイルがどういうスタイルなのかが分かってきます。

― 実際の授業で意識していることはありますか?

  • 生徒に各単元の本質の重要性を伝える、ということを第一に考えますね。例えば「記号」の単元だと、それの意味が分からないことにより、生徒が考えなくてもよいことまで考えてしまうケースがあります。「記号」の本質が分かっていれば、このようなミスは起こりにくいです。例えば導入授業だと、過去に自分が教えた生徒がミスした具体例を挙げてみたりします。すると、生徒がハッとした表情を見せるときがあります。そこで、「本質が分かれば、こういうミスは絶対しないよね」と話をすると、本質の重要性が伝わりやすいようです。初めて取り組む内容では特に、生徒は勘違いや思い込みをすることがありますから、注意して臨みます。
    また、限られた時間をどの部分に費やすかということも、大切にしている意識のひとつです。私の場合は、生徒に間違えやすい部分や分かりにくかった部分をしっかり聞くことで、時間を割くべきポイントが徐々に分かってきました。

― その他に、何か工夫されていること等はありますか?

  • インタビュー風景授業でなんとなく理解できたとしても、家に帰ると分からなくなってしまう生徒は多いです。そのため、例えば市販されている問題集を用いて、その日の授業にリンクした問題をもう一度演習するよう指示することがあります。数学が苦手な生徒に対しては、チャート式の演習部分を毎日指示するケースもあります。
    また、生徒に考えさせる時間を与えるために、沈黙を使うことも大切だと思います。「間」を与えず知識を使い続けると、生徒は疲れてしまいますし、ひたすら一方通行で話すと、10言ったことを2か3しか吸収できない生徒も出てくると思います。生徒一人ひとりに頭を使って、発問した内容や例題を考えてもらうために、1分くらいの時間はあってもよいと思います。その時間で、考え、手を動かしてもらうわけです。そのためには、教える側が、本質を考えることにスポットを当てた発問の仕方を、授業の準備の時点で考えておく必要があると思います。

― 授業に集中しきれていない生徒を惹きつける話し方、テクニック等があれば教えてください。

  • 一つは自分が授業で楽しむことですね。早く終わらないかと思って授業をしていれば、生徒も同じことを感じると思います。熱くなるポイントを決めて、自分が感動した体験談を話しつつ授業を進めてゆくと、生徒も熱を入れて聞いてくれていると感じます。その意味では、自分が教壇に立って教えるのを楽しむことが、生徒を惹きつける上ですごく大事なことかな、と思いますね。例えば円周率3.14の計算されたルーツを話す時は、数学の本質や、昔の人間がどうπを計算しようとしていたか等、色々な話を交えながら、暗記をなくし本質を分かってもらいたい、という考えのもとに教えています。その結果かどうかは分かりませんが、生徒から「楽しかったです」と言ってもらえることが多いかなと思いますね。数学を純粋に楽しんでもらえていれば最高です。

― そのような意識をしても、うまくいかなかったことはありますか?

  • 言いたいことが伝わらなかったり、熱意はあってもそれが空回りしてしまったり・・・。そんなときはいたって素直に、自分の教え方が下手だと感じたことを認めます。例えば生徒に対して教えたときの反応がいまいちであった場合、「今の説明は下手だったから、違う説明をします。」などと言って、教え方を変えるときもあります。
    授業は人と人とのやり取りですから、失敗があって当たり前だと思っています。進め方に必ずしも正解があるわけではないですし、その意味では、先生が人間的な部分を見せるのはいいことだと、凄く思いますね。授業中にセンサーを張り、生徒の反応を確認しながら進行することは大切だと思います。

― 最後に全国の先生方へメッセージをお願いします。

  • 根本的な事ですが、授業で扱う単元の理解を深めることが何よりも大切です。
    また、自分と他者の教え方を比較したり、知ることによって、視野が広がるので、先生同士のコミュニケーションを大切にしてほしいです。月1回でもよいので、定期的に、様々な先生と授業へのアプローチの仕方について語る機会があると、とても勉強になります。私自身、そのような経験をして成長することができたと、今では思っています。

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聞き手:吉岡