HOME > 高校支援 > 教育情報・教育インタビュー > 授業の準備こそが自信の源 - 蔭山 克秀(公民)

授業の準備こそが自信の源 - 蔭山 克秀(公民)

公民講師  蔭山 克秀

― 今日は政治経済と倫理・政経に関して、「授業の準備と実施について」というテーマでお話をお伺いできればと思います。
  まず先生に思い入れのある分野をお伺いします。

  • 経済分野の国際経済ですね。特にその中の国際通貨体制。金本位制→固定相場制→変動相場制と移り変わっていきます。代ゼミでは時期的に10月くらいに勉強する分野です。実生活とあまり関係が無いので基本がわかっていても難しい分野ですが、試験には良く出るんです。

― 国際通貨体制は、授業の回数としては何回ほどになるのでしょうか?

  • インタビュー風景代ゼミの90分授業だと2回と半分。高校では4~5回でしょうか。倫理・政経ではまったく時間が足りず、1.5回分の時間しか使えません。ですから見てわかるプリントを用意して、内容を補うようにします。授業で扱うのは、説明を聞かないと分かりづらい部分に限定します。このあたりは、2018年夏のワンデイセミナーでも触れましたね。
    この分野ですと、通貨体制の移り変わり全体の流れは必ず授業で扱わなくてはなりません。ブレトン・ウッズ体制(固定相場から変動相場へ移る流れ)が一番難しい。指導者のフォローが無いと、生徒は理解出来ないでしょうから、背景からきちんと話して60分以上時間をかけるようにしています。逆に南北問題やODAは、内容が多いものの見ればわかりますので、丁寧にプリントを作って配布すれば省略可能です。ヨーロッパの統合や貿易摩擦については多少授業で話して、残りをプリントで補っています。

― 先生はどのくらい時間をかけて授業準備を進められますか?

  • まず時間について、最初のころは90分授業に対して4時間位の時間をかけました。4時間より準備時間が短くなってしまうと雑になる気がします。高校の授業でしたら授業1回あたり3時間程度が目安でしょうか。
    準備そのものは、1年分を時間のある春先にしてしまいます。あとは授業の直前。また、同じ授業を全国の校舎で何度もするので、実際に一度授業をしてみて、内容の不足を感じた際には次の授業から追加するようにしています。この授業直後の反省は重要です。「これを省略すればあれを教えられたなぁ」など色々あります。
    ただし、これは何度も同じ授業をする予備校だからこそですね。授業機会が少ない場合は、前の年の授業の反省点がベースになります。
    1年分まとめて準備する時間がない場合は、冬休みに3学期の分など、時間のある時に少しずつでもノートを作るようにしてください。きちんとしたノートを作ってしまえば、大きく刷新するのは数年に一度で大丈夫です。

― 授業の準備について更に具体的にお伺いできればと思います。

  • まず板書のアイデアをつくって、その中で説明を省略できる部分を探します。そうして時間内に収める授業計画を作ります。不安な時は練習ですね。1回録音しながら授業をしてみたりもします。
    ノートは教科書も代ゼミのテキストも両方見ながら作ります。教科書は流れ重視で作られており、用語の説明が少し弱いです。ですから代ゼミのテキストや用語集とうまく組み合わせてノートを作るのが理想的です。用語集はフレーズがそのまま出題されることもある山川出版のものがおすすめです。
    板書・ノートの形式については箇条書きはやめた方がよいでしょう。政治経済と倫理は流れが重要です。歴史は用語を覚えることが得点につながりますが、公民科目で難しい問題は内容の理解を問う正誤判定です。ピンポイントの年号の暗記より、10年単位での把握とその前後の因果関係を理解することが大切です。
    また、倫理と政治経済は完全に別のものですから、倫理・政経として指導する場合は、生徒に別々のノートを使わせてください。但し、色使いなどの板書のルールについては統一すべきです。

― どのくらいのレベルの生徒を想定されるのでしょうか?
  実際に授業をしてみて初めて生徒のレベルが見えてくることもあると思うのですが。

  • インタビュー風景僕の担当はセンター系の授業が多いですから、そのあたりは高校の先生と近いと思います。「センターで使う」という一点でまとめられた、レベルに差がある集団を指導することになります。最初の段階では、上のレベルの生徒には合わせず、全体に分かる授業を目指します。上のレベルの生徒はどんな説明でも納得してくれますが、下のレベルの生徒が理解するには噛み砕いた説明が必要ですから…。具体的には中学2年生にも分かる表現での説明を心掛けています。春先に行う準備もこのレベルですね。
    経験則ですが、予想以上に基礎的な教養面を含めて「わからない・ものを知らない」生徒が多いです。ハイレベル向けのクラスでも、生徒の顔色や首をかしげる仕草から、「この子はこのレベルでもわかっていない」と察して、レベルを下げて話すこともあります。「わからない子がどのくらいまでわかっていないか」を知ることが授業を成立させるためには必要不可欠です。
    一度授業をしてみて、生徒が優秀だった場合は、次の授業から話のレベルを上げることもあります。国際経済分野ですと、金本位制やSDR、流動性ジレンマなどはかなり難しい内容ですが、わかると面白いですからレベルの高い生徒向けの話のテーマですね。基本的な授業の準備がきちんとできていれば、こうしたトピックを追加で盛り込む作業は1時間位で済みます。

― 国際経済分野の授業はどのような流れで進められるのでしょうか。

  • 金本位制という難しい内容があるのですが、その誕生の背景から説明していきます。イギリスで19世紀に貿易の必要性があったことなどです。その金本位制が次に変動相場になり、固定相場になりました。なぜこれらが起こったのか、それをこれから見ていきます、とまず大きな流れを生徒たちに示します。難しい内容ですから、一つ一つ丁寧に歴史の流れに沿って各国の関連性も説明します。
    国際経済分野に限らず、歴史的な背景と大まかな流れについては最初に話しています。
    生徒にはきちんとメモやノートをとらせ、録音も推奨しています。これは高校の先生の場合、学校の方針によっては難しいかもしれませんが、録音が一番情報の漏れが少ないと考えています。

― 実際の授業の流れについてお伺いできればと思います。

  • トランプ大統領の話題など、授業に関連する雑談から始めることはあります。ただし、センター試験の時事問題は最新の内容でなく、3月頃までの内容が出題されますから、その頃までの話題に関連した内容を話すようにしています。
    ノート用の枠組みをプリントにしたものを配布し、生徒はそれに書き込みながら授業を聞きます。こうすると板書のレイアウトが意図の通りに反映されますし、生徒がだれてしまうことも防げます。慣れてくるとレイアウトを意識しながら、省略した板書・指示ができるようになります。

― 生徒を授業に引き込むテクニックやコツのようなものはあるのでしょうか?

  • 問いかけに関しては、ある程度最初から政治経済に興味があったり、自分と仲の良い生徒をまず指名します。その後、段々と対象を広げていきます。特に少人数なら講義形式でなく、どんどん話しかける。そうすると生徒も「自分のことをきちんと見てくれている」と思ってくれます。
    問いかけの内容については「知っている/知らない」のようにイエスとノーで答えられるものから質問を始めます。そこから「〇〇は難しいよね」というふうに会話の内容を誘導していきます。
    逆に政治経済に興味を持ってくれない生徒については、授業中に問いかけでほぐそうとすると、周囲の目を意識してどんどん頑なになってしまい逆効果です。そうした生徒には授業の後に個別に話しかけます。「授業中寝てたけど、〇〇の部分は詳しいの?」「どんな漫画読んでるの?」とかそんな感じです。繰り返していくと段々と授業中に顔を上げてくれたり、授業前の雑談に参加してくれるようになります。ただ、生徒に迎合しようとすると無理がありますから、生徒と自分の共通点を探すようにしています。
    過去には、生徒に悪意はなくてとても真面目なんだけど、ずっと黙って下を向いているクラスでも苦労しました。そういう時はまず「このクラスはとても静かで授業がやりやすいね」と褒めます。そうすると少しずつ顔が上がり始めるんです。

― 最近、人手不足を背景に、突然新しい科目の指導を任せられるケースもあるようです。そうした先生方へのアドバイスをお願いします。

  • 僕もそうです。政治経済が専門だったんですが、代ゼミ2年目の時に倫理も担当するように言われました。倫理を急に任せられるケースって多いと思います。まず単語の意味を一生懸命覚えたんですが、問題がまったく解けませんでした。実際に授業を担当し多くの問題を解く内に、思想内の因果関係と思想誕生の歴史背景の理解が重要だということに気付きました。歴史に残るような大思想って理由がないと生まれないんです。
    政治経済と倫理には流れが重要という共通点があります。しかし倫理は「人物の内面を超主観的に考察する」科目、政治経済は「外で起こった出来事を客観的に俯瞰する」科目ですので、頭の使い方が全く違います。先生も生徒もうまく切り替えられるように注意してください。

― 最後に全国の先生方へのメッセージをお願いします。

  • 僕自身、5年目くらいまで生徒が怖くて、授業が不安なことがありました。「こんなの馬鹿にされるんじゃないか」「内容が易しすぎるんじゃないか」と生徒の顔色を窺ってしまうんです。そんな卑屈な状態では良い授業にはなりません。授業準備をきちんと行って「俺はこんなに準備したぞ」と自信を持って生徒に教えてあげてください。自分の授業に不安がある先生は生徒に見えない影を見て、怯えてしまっているんです。怯えてしまうと自信のない先生に見えてしまいます。
    準備が自信の源です。「一万の知識の内、百を教えているぞ。手札はまだまだあるんだぞ」という空気を出してください。

+ さらに表示

聞き手:福田