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最も大切なのは生徒に熱意を伝えること - 梅澤 聖京 講師(古文)

古文講師  梅澤 聖京

― 本日は梅澤先生にICT指導法と令和4年度共通テストの特徴についてお話をお伺いできればと思います。
先生が授業でICTを使われるようになったきっかけは何でしょうか。

  • インタビュー風景きっかけになったのは、通常の生徒指導ではなく教員研修です。2017年の夏に漢文の北澤先生と合同で先生向けのワンデイセミナーを担当した際に初めてICTを使用しました。講座の紹介文は北澤先生が書いてくれたのですが、そこには「ICTの活用」と書かれていました。北澤先生が授業でICTを使うことは知っていましたから、てっきりICT活用の部分は北澤先生が担当するのだろうと考えていたのですが、北澤先生から「梅澤先生もICTを使うんですよ」と言われてしまい、急遽Microsoft社のSurfaceを購入した次第です。
    いざICTを使って授業をしてみると思った以上に快適で、今では生徒向けの指導でも有効に活用しています。

― 先生はどのようにICTを使われているのでしょうか。

  • 主にテキストに掲載されている古文の本文を投影して利用しています。本文に構造や単語、文法に関する情報を書き込んだデータを投影し、生徒達には私の解説を聞きながらそれらをテキストに書き込んでもらいます。こうすることで「私にはどのように作品が見えているか」を生徒と共有することができます。
    勿論、板書でも同じ指導法は可能ですが、ICTを使うことで大幅な効率化が見込めます。英語の吉村先生からも同様の相談を受けたことがありますが、私自身、文章の構造を解説するために本文を板書する時間が勿体ないと感じていました。これは、現代文・古文・漢文・英語など語学系教科を指導する先生に共通の悩みだと思います。
    また、ICTは一覧性に優れています。板書ではスペースや時間の関係で全体像を示すことが難しいケースもありますが、ICTを使えば対応可能です。文章の参照箇所を示したり、遠く離れた部分の対応関係を解説したりする時には特にICTの本領を発揮できるのではないでしょうか。
図表

― どのようなソフトを使われているのでしょうか。

  • 私が使っているのは無料のDrawboard PDFというソフトです(Pro版は課金が必要)。たしか、北澤先生の他にも現代文の青木先生や英語の谷川先生もこのソフトを使われていたかと思います。このソフトの主な機能としてはPDFへの書き込みで、タッチペンにも対応しています。丸や三角といった標準的な記号にはプリセットがありますが、私の多用するカプセル型の丸印は残念ながら手で描かなくてはなりません。

― ICT教材の準備はどのようにされているのでしょうか。

  • 本文自体は代ゼミテキストの版下データを流用していますが、実は本文以外の文字はタッチペンで手書きをしています。スクリーンに映したり印刷したりする時には分からないような微妙な角度も調整したりしています。「神は細部に宿る」といいますからね。そんなことをしているものですから、この書き込みには結構な時間がかかりまして、1講座90分の準備に慣れた今でも大体2~3時間はかかります。使い始めた頃に作ったデータと比較すると慣れてきている今の方が綺麗に書けているとも感じます。背景を濃灰色にしたチョークと黒板風のデータを作ってみたりもして、見やすさや生徒の反応を確かめつつ、今でも色々試行錯誤しております。
図表

― ICTを使う上で注意されている点はありますか。

  • 生徒の集中力のコントロールとバランスの取り方には気を遣っています。ICTを使うと生徒が受け取る時間当たりの情報は増えていく傾向にあります。私の授業であれば、生徒が情報を漏らすまいとテキストへの書き込みに集中しすぎてしまうことが問題です。オリジナル単科などの対面授業ではできるかぎり投影データを生徒に配布し、生徒が解説を聞くことに集中できるようにしています。また、Surfaceは画面の拡大や縮小を行えますので、意図的に生徒の目に入る情報を絞り重要なポイントに集中できるようにすることもあります。
    ICTを使う場合は生徒からどう見えているかにも気を付けています。代ゼミのサテライン部門から自分の授業のDVDを送ってもらい客観的に点検するようにしています。例えば、ICTを使い始めた頃に投影されている文字が小さいと感じたのですぐに修正しました。

― ICTを使った指導では板書をされないのでしょうか。

  • いいえ。板書は必ず行うようにしています。全てをデジタルで済ませてしまうと対面であっても生徒が授業に主体的に参加できず、私から生徒への一方通行になってしまいます。また、サテラインでは、画面の向こうの生徒の様子を知る術がありません。ですから、どうしても生徒に押さえておいてほしい内容については必ず板書するようにしています。
    具体的には単語や古文知識について板書するようにしていて、特に知識は生徒自身に手を動かして書かせることで覚えてほしいと考えています。やはり平安時代の文章を指導する場合は、重要単語や文法事項も多く登場しますから、板書に割く時間が長くなると感じます。

― ICTにはトラブルが多く利用に二の足を踏む先生もおられるようです。

  • ICTは便利ですが、精密な仕組みの上に成り立つものですから不具合はつきものです。私自身、何度も授業中にトラブルが発生しています。タッチペンを2本用意するなどの備えはしていますが、万策尽きてICTを使えないこともありました。いざという時にはICTを使えなくても授業ができるように準備をすることも大切です。ICTがなければ授業が成立しないという状況は避けなくてはなりません。

― ここからはもう一つのテーマである令和4年度共通テストについて先生の印象をお伺いできればと思います。

  • インタビュー風景2年連続で今の受験生には難しめな問題であったと思います。新課程においては古典の時間が少なくなるとされていますが、それに対するアンチテーゼ的な出題だったのではないかとも感じています。古文は千年前の文章です。それを今、私たちが使っている現代の文字で読み解くことができるというのは非常に意義のあることです。このようなことができる国家は、世界を見渡しても数えるほどだと思います。そうした文化の土台を削ろうとする動向への批判も込めての難化傾向かもしれませんね。

― 具体的に生徒はどういった部分を難しいと感じたのでしょうか。

  • 本試験についてですが、注意書きに「文章Ⅰ増鏡は文章Ⅱとはずがたりの内容を踏まえて書かれている」とありましたらから、多くの生徒は文章Ⅱを中心に読み解いていったと思います。ところが、この文章Ⅱは会話が多く、場面設定も分かりづらかったため受験生が読み進めるには難しかったであろうと思います。後深草院が異母妹である斎宮を嵯峨の離宮に招いている場面なのですが、その点の注釈がなく分かりづらかったと思います。実は、「とはずがたり」については2013年に東北大学で同じ場面から出題されており、その時には場面設定が説明されていました。
    入試古文では恋愛描写からの出題も多いですが、中でも令和4年度共通テスト本試験の文章については、登場人物3名の関係、シチュエーションともに現代人の一般常識からすると理解に苦しむ可能性の高いものであるため、生徒達もイメージしづらかったのではないかと思います。

― 設問についてはどうだったのでしょうか。

  • 問1の傍線部の解釈問題でセンター試験からの変化が見受けられます。センター試験では、傍線部に注目することが後々の読解を助ける問題の作りになっていることが多いと分析していたのですが、共通テストでは傍線部の選定にあまりそうした意図が感じられず、単に重要事項について確認しているだけなのかもしれないという印象を受けました。共通テストでは考察が重視される分、純粋に知識だけを尋ねる問の数が減っていますから、知識を問う問題については、割り切って知識確認の役割に特化させた可能性が考えられます。
    問4で共通テストに特徴的な会話文形式の問題も出題されていますが、結局の所、従来とは形を変えて本文を正しく解釈・理解できているかを尋ねているだけだと感じました。

― 令和5年度共通テスト古文について先生の予想を教えていただけますか。

  • 残念ながら「これだ」と断言することはできません。センター試験時代は擬古物語を中心としたマイナーな文章から出題されることが多かったのに対して共通テストでは、「栄花物語」、「増鏡」、「とはずがたり」と比較的メジャーな文章から出題される傾向にあります。
    対策としては、基本である「読んで解く」を磨き上げて速度と正確さを高めていくことに尽きると思います。時間をかけて正確に読めない生徒が急いで正確に読むことは絶対に出来ません。焦らずに生徒が正しい読み方を身につけられるように指導していただければと思います。受験勉強の意義の一つはそのような「かたち」を身につけることであると常々生徒にも言っております。
    ただし、試験においてはある種の情報処理能力や読解の技術も求められますから、それらを生徒に身につけさせる指導も必要です。この点については、少々ストックが少なく心もとないですが、入手可能な過去の共通テスト(令和3年度第1日程、第2日程、令和4年度本試験、追試験)を徹底的に研究することが効果的だと考えています。

― 本日はICT指導法や共通テストについてお話をお伺いしましたが、最後に先生方へのメッセージをお願いします。

  • コロナ禍で勢いづいたICT化の流れによって「ICTを絶対に上手に使わなくてはならない」と悩まれている先生もおられるかと思いますが、ICTはあくまでも補助であり、ICTに振り回されてしまうのは本末転倒です。私自身も教育はアナログであるべきで、映像授業が対面授業に勝ることはないと考えています。ただ、ICTにもご紹介したような利点はありますし、ご事情によっては使わなくてはならない状況もあるかと思います。
    教育において最も重要なのは、先生の熱意を授業に乗せて生徒に伝えることですから、「そのためにはICTをどう使えば良いか」というスタンスでICTと付き合っていくことが大切だと考えます。

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聞き手:福田