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「自ら解く」ことと、データベースの有効活用 - 土生 昌彦(現代文/小論文)/篠原 圭佑(小論文)

代々木ゼミナール 教材研究センター 国語研究室 土生 昌彦(現代文/小論文)/篠原 圭佑(小論文)

― 入試問題研究はどのように行っていますか。

  • 土生(現代文):入試問題の研究には三つのレベルがあると思います。一つ目は「問題を見る・ながめる」というレベルです。どの大学がどんな問題を出しているかをながめるのは、一般の方でもよく行われているかと思います。二つ目は「分析する」というレベルです。これは出典や本文の長さ、設問の形式などを分析し、出題傾向を把握する作業です。我々も業務でよく行う作業です。入試の研究では主に今述べた二つが中心になると思うのですが、我々は実際に問題を作りますので、三つ目の入試問題を実際に「解く」というレベルがとても大事な作業になります。実際に問題を解いてみて初めて分かることがたくさんあるからです。また、長年、問題を解いた蓄積にもとづいて模試やテキスト教材を作成するという面もあります。現場の先生方も生徒さんを指導する際に、一度ご自分で生徒さんが志望される大学の問題を解かれると、より具体的なアドバイスができるのではないかと思います。
  • 篠原(小論文):小論文では、大学の入試問題をとにかく片っ端から「ながめる」ところから始めます。そして、たくさんの問題を収集し、どんなテーマが出題されているのかを「分析」します。このとき、大学、学部、出題形式、出題内容、出題された著者、制限字数などの情報をデータベースに入力します。この入力作業の段階で、近年の傾向が把握できたり、新しいテーマの問題が出題されたことを発見できたりします。後者に関して、例えば最近では「人工知能」や「学校教育へのICTの導入」などがよく出題されるようになりました。さらに、データベースを作成する利点は「検索」が可能になることです。例えば「環境」というキーワードで検索をすると、これに該当する問題が一覧で表示されますので、テキストの作成や生徒指導の際には非常に有効です。
    インタビュー風景
  • 土生(小論文):小論文のデータベース作成は、情報を入力するだけの機械的な作業だと思われがちですが、出題された入試問題を全文入力するわけにはいきませんので、入力担当者が頭の中で問題を要約する必要があります。この作業を行う中で、記憶に残ったり、心に引っかかったりすることが多くあります。機械的にデータベースを作るというよりも、自分の中で解釈したり、要約したりしながら打ち込んでいくと、より使い勝手のよいデータベースができ上がるのではないかと思います。

― 分析した結果はどのように教材などに反映させていますか。

  • 土生(現代文):現代文では、毎年主要大学の入試問題を入手し、約150大学、設問にして600問程度をデータベース化します。本文の筆者、作品名、大学、学部名などを入力し、入試の現代文でどういった著者が出題されているかのランキング表を作成します。
    ⇒2015年のランキング表はこちら
    これにより、近年どういう著者の出題が増えているか、どういうジャンルの文章が用いられているかなどの傾向が見えてきます。模試作成時の出典の選定やテキスト編集を行う際には、これが非常に有効な情報になります。データベースの作成は、テキストや模擬試験において、近い年度での重複した出題を避けるという実用的な面もあるのですが、十年、二十年という大きな流れ・傾向を把握するためにも有効です。現代文という科目は時代の流れと無関係ではいられませんので、著者やテーマも時代の流れに即して動いています。特に入試問題は、大学の研究者が作ることが多いため、例えば慶応大学などのように、時代を少しだけ先取りした出題がされることがあります。こうした各大学の傾向なども、データベース作成の中で気付くことがしばしばあります。
    インタビュー風景
  • 篠原(小論文):小論文の場合、研究や分析の結果は、『新小論文ノート(代々木ライブラリー)』を作ることに集約されます。片っ端から小論文の問題を見る中で、新しいテーマの問題や、ぜひ高校生に考えてもらいたい社会問題を扱った良問に出会うことがあります。こうした問題を『新小論文ノート』に反映させていきます。ただし、『新小論文ノート』に掲載される問題は必ずしも全てが最新年度の問題というわけではありません。既に掲載されている良問と新しい問題の候補とを比較し、より良い問題を選抜して毎年改訂を行っています。改訂を加えるたびに、どんどん良いものになっているという実感があります。また、単純に問題を掲載しているだけではなく、充実した解答解説がついていますので、現場の先生方にもぜひ使っていただきたいです。

― 入試問題を分析する際の有効なツールなどはありますか。

  • 土生(現代文):手早く入試の傾向・全体像を知るには、『年度別 全国大学入試問題正解(国語)<旺文社>』が有効です。また、『作者・作品別現代文問題総覧<明治書院>』は、問題が著者別に整理されていますので、便利です。センター試験であれば『センター試験過去問研究<教学社>』に25年分が1冊に収録されています。ただし、こうした書籍だけでなく、生徒さんの多くが志望する大学の入試問題の現物にあたり、それぞれの先生なりに整理・アレンジしてみることが大切だと思います。自分たちで整理していく中でいろいろな情報が手に入りますので、こうして作り上げた資料をツールにしていくことが、本当は一番使いやすく、生徒さんへの指導にも有効かと思います。

― 入試問題研究を現場での授業に活かす方法などはありますか。

  • 土生(現代文):最も効率の良い入試問題の活用方法は、手間はかかるのですが、選りすぐりの問題を「自分で解く」ことです。現代文や小論文は模範解答がたった一つ存在し、それ以外はすべてダメという世界ではなく、書く人の数だけ表現の違いがあります。「生徒はこの問題をどうやって解答するだろう」という、表現の可能性を頭に入れながら問題を解いていると、これはもう授業を行っている作業に近いと思います。表面的に問題を分析するだけではなく、自力で解いて、その時に頭の中で考えたことを授業で再現すれば、生徒の関心を高めたり、学力を向上させたりするのにとても役立つと思います。一見、回り道のように見えますが、こうした方法が最も効率的な入試問題の使い方ではないかと思います。
    センター試験にしても東大の現代文評論にしても、文章そのものは高校教科書レベルとそれほど変わらず、決して難しい文章が出題されているわけではありません。したがって、教科書に掲載されている文章に、先生方がご自分の入試研究で手に入れたヒントを少し付け加えて、本文に傍線を引いて記述の問題を作ってみたり、選択肢の問題を作ってみたりすることで、教科書の勉強と大学入試がうまくリンクすると思います。

― 小論文の指導について何かヒントをいただけますか。

  • 篠原(小論文):まず前提として、小論文はいろいろな教科の要素を含んでいますので、いろいろな先生が協力して指導することが効果的だと思います。また、もし私が行うとしたら、指導の際には、「講義・添削の割合」と「生徒が実際に書く割合」とを1:1に近づけるように行います。小論文はスポーツに似ていて、ただ話を聴いているだけでは、上達しません。一方で、ひたすら問題を解いて書くだけでは、自己流になってしまいますので、講義や添削を通して自分の書いたものを客観視する時間を作ることも必要です。これらを上手く組み合わせることが重要なので、この比率は1:1がベストではないかと思います。
  • 土生(小論文):やはり小論文は個別指導だけでは物足りないところがあります。「小論文はこういうものだよ」、「作文とはこう違うんだよ」、「こういう論の組み立て方があるよ」などといった一般的な説明については、講義を通して全員に向かって伝え、共通の理解を作っておくことが有効です。ただ、小論文は自分の考えを書く科目なので、生徒さんそれぞれに考えていることが違いますから、考え方のアプローチが違った場合には、そのアプローチに従って指導していかなければいけません。それが添削です。その場合には、個別に生徒さんが書きたい内容に即して「ここをもう少しこうすればよくなるよ」という指導をすることが大切だと思います。学校の先生方は個別の添削がメインとなるかもしれませんが、一度まとめて小論文の概論を説明した後で、生徒さんに小論文を書かせることで、何人にも同じことを繰り返して伝える手間が省け、指導の効率が上がるのではないでしょうか。

― 現在、新たな入試についての議論も行われていますが、現代文や小論文のあり方は今後どう変化していくとお考えですか。

  • 土生(現代文・小論文):新しい入試改革の流れでは、思考力や表現力が問われています。その中でも「書く力と考える力」をなるべく低学年から養う必要があると思います。これは現代文と小論文の専門分野ですので、全体に占める国語の比重は更に高まっていくと考えられます。おそらく新たに実施されるセンター試験にも記述式が取り入れられると思いますので、自分の理解したこと、考えたことを自分の言葉で書いて、表現する力を、なるべく高校1・2年生の早い段階から身につけていくことが大切だと思います。客観式の問題を数多く解くことより、易しいけれど言葉で正確に表現するのが難しい、「易しい記述問題」をきちんと解けるようにする必要があります。こうした問題を確実に解くことが、新しい入試制度に即応した学力をつけることにも直結するのではないでしょうか。

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聞き手:吉田