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冒頭25分間は集中して書く時間に 講義は1話完結のストーリー仕立て - 佐藤 幸夫 講師(世界史)

世界史講師  佐藤 幸夫

― 先生が板書するうえでのこだわりは何ですか? 社会の先生というのは教える内容が多いので、すべての事柄を板書しようとすると時間が足りなくなってしまうんですよね。ですから、プリントを使う先生も多いでしょう。でも私は経験上、自分の手で実際に書いて覚えたものでないと点数は取れないと思っているんです。そのためには、生徒たちがノートを覚えやすく、且つ整理しやすい板書にしなければいけないと思っています。

― プリントを使わないのであれば、どこで時間短縮をするのですか? テキストを有効利用するんです。たとえば、人名と業績が箇条書きに並んでいる単元や、中世都市や植民地戦争のように、図解や地図でしっかり説明できる単元は板書せず、テキストのコピーをノートに貼ってもらいます。そうやって、ここは板書、ここはテキストというようにうまく使い分けて、ノートを仕上げるようにしていきます。昔は全部書いていましたが……、時代の流れですね、今の生徒たちは書くのが遅いと感じます。

― いつごろから書くのが遅いと感じるようになりましたか? 10年ぐらい前から、徐々に遅くなっているように感じます。時間にすると、10分ぐらいは遅くなっていますかね。やはり「ゆとり教育」もしくは「技術革新」が原因ではないかと思いますよ。どんどん手で書かなくてもいいようになってきていますからね。これからはタブレットがノート代わりになるわけですから、もっと遅くなりますよ。技術の発達は人間のある一部の能力を衰退させると思います。私が考える根本的なテーマ「書いて覚える」というものが、これから通用しなくなってくるのではないかと不安ですね。間違いなく、暗記力は劣っていくと思います。でもその分、生徒たちは違うところが発展するのではないかな。それを育て上げれば、日本の教育に何か新しい風を吹かせることができるかもしれません。

― 板書と説明の時間配分はどうしていますか? 代々木ゼミナールの場合、授業は90分間ですが、私はその冒頭25分間を板書する時間に充てます。生徒にとって書き写しながら、話を聞き取るというのは難しいですから、ひたすら黙々と書く。こう言うと、板書の時間が長いと感じる人もいるかもしれませんが、生徒たちが机に座って先生の授業を本当に集中して90分間聞くことは、かなり困難なことだと私自身は思っています。高校で教師をしている多くの友人に話を聞くと、約50分間の学校の授業中、40分でさえ集中して聞かせるのは難しいと言っていますからね。ならば、90分中25?30分間は書くだけの時間としてもいいのではないか。その代わり、残りの60?65分は、生徒たちの記憶にしっかり残るような歴史講義をしようと常に考えています。

インタビュー風景 ― 25分間書くことに集中させるための工夫は? 絶対覚えてもらいたい重要事項は、あえて板書せず、そこだけ空欄にしておくのです。そうすると、生徒たちはノートを取りながら、「この空欄には何が入るのだろう」と考えますよね。「わかる人は私が答えを書く前に空欄を埋めておきなさい」、と前もって話しています。そうすれば、25分間ただ黒板を写しているのではなく、確認テストをしながらノートを作っているという感覚になりますよね。予習した方がいいなあとも思ってもらえますし。板書の後は説明の時間になりますが、そこで今書いたものにいろいろ付け足しをしていく感じです。色で囲んだり、波線を引いたり、脇に説明を付け加えたり。だから、板書するときはあまり目一杯書かず、まだ情報を残しておく方がいいのですよ。

― ノートの取り方について指導はしていますか? 自分なりに良いノートを作るというのは、ただ写すだけではなく工夫するということです。自分で段落や色を変えたり、矢印を引いたりして手を加えることで、より頭に残るようになります。そして試験のときに、あそこで書いたところだとか、あの順番で書いたなとかを思い出すことができるわけです。大事なのは、その部分だけを暗記させるのではなく、全体の流れで覚えさせることです。本来、ノートは家に帰ってから書き直した方がいいのですが、それは志望校が私立か国立かなど生徒たちの受験環境によって変わってきますね。たとえば国立志望の浪人生となると、たくさん授業がありますので、世界史のノートをきれいに整理している時間はありません。だから、授業中になるべくしっかり書いておき、あとは私が重要だと示した部分だけ、きれいに書き直します。一方、私立志望の人、さらに世界史が苦手な人には、全部書き直すように指導しています。ノートをしっかり取ることは、自分だけの参考書を作っていくことになりますから、必ず実力がつきます。

― それぞれの都合に合わせればいいのですね? 要は、与えられた時間の中でどこまでできるかです。これはノート作りだけじゃなく、受験勉強全体に言えることですよね。すべては全教科のバランスが大切です。沢山時間をかければ、その教科は伸びますが、他教科への負担になります。生徒たちには、与えられた時間の中でより良いものを作るという考え方を持ってもらうため、1コマ90分の授業のノートを家で書き直すときは、90分以内で済ませるように指導しています。

― 視覚的に見せるということで他に何か工夫されていることは? 色使いもありますが、一番は字が見やすいことが大切ではないでしょうか。生徒たちにとっては、達筆の先生が書くようないわゆる長細い文字より、四角い枠に収まるようなゴシック体に近い丸文字の方が見やすいようなので、極力そのように書いていますね。あと板書は、タテ11行、ヨコ3列と決めていて、その中に内容が収まるように完璧に準備してあります。

― 板書の後、説明するときのポイントは? 今日はローマ教皇の話、今日は中国の唐の話というように、1回の授業で内容が完結するようにしています。1話完結のドラマのように、説明もストーリーを組み立てるように話して、今日は面白かったねと言って終わるようにすると、生徒たちの印象に残りやすいです。だから、すべてのクラスで毎講、終わるところが必ず決まっているのです。だから、年間を予定通り消化できるので、生徒たちは先が見えて、安心して受講できるというわけです。又、たとえば生徒が1回休んだとしても、前回の授業とのつながりを気にしなくても、次の授業の範囲が分かるのでこれまた安心、問題なく今日の授業から始められるということです。

インタビュー風景 ― 丸暗記にならないための勉強法のコツは? 社会という科目で一番重要なのは、家に帰って今日授業で学んだことを自分の言葉で話せるかどうかです。そのための一つのツールとして使えるのが、板書を写したノートです。他の科目と違って、歴史というのは人に話せるものだから、どんどん話した方がいいです。逆に話ができないと、頭に入っていないということだからテストも点が取れません。だから私は、自習室で復習するのではなく、家に帰って家族の誰かに話してみてと言っています。たとえば、TVの歴史番組の内容が記憶に残りやすいのは、音楽が効果的に作用しているからだと思います。頭の中にイマジネーションを広げることが大切なのです。歴史マンガも同じで、絵を見て想像力をかきたてられ、物語が頭に残る。“歴史”というものは、本当は暗記しなくても良いくらいのものでなくてはいけないと思うのです。入試のことを考えても、普通のテストが一問一答式の空欄補充だけだったら、たぶん暗記でも解けるでしょうが、正誤問題や論述問題だったら丸暗記は通用しませんからね。勿論、物語の方が、楽しく深く頭に入っていきますしね。

― 生徒たちを引き付ける話を準備することが必要ですね? 私は授業中、話をするだけでなく、まるでマンガのキャラクターになりきったように、飛んだり跳ねたり、たまには机にまで乗っかったりして、全身でパフォーマンスしますよ。学校の先生たちは授業だけでなく、進路指導や部活などにも時間をとられますから、毎回ネタを用意するのは大変かもしれません。でも、歴史ほど面白いエピソードにあふれている科目はないですから、可能なかぎり情報収集して、ぜひ生徒たちを楽しませる話を研究していってほしいと思います。

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聞き手:坂口