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2021夏期「授業法研究ワンデイセミナー」質疑応答集

2021夏期「授業法研究ワンデイセミナー」
受講者から出た質問に担当講師が答える「質疑応答集」を公開!

2021年夏期 授業法研究ワンデイセミナーの中で、受講者の皆様からいただいたご質問に対して、担当講師がお答えします。共通の疑問を持った現場の先生方に広く共有いただければ幸甚です。
※いただいた全てのご質問にはお答えできませんが、どうかご了承ください。

本部校出講日 科目 担当講師
7/31(土) 化学 岡島 光洋
倫理政経 蔭山 克秀
小論文 鈴木 勝博
船口  明
8/1(日) 生物 大町 尚史
物理 中川 雅夫
地理 宮路 秀作
8/7(土) 英語(1) 富田 一彦
文系数学 貫  浩和
現代文 笹井 厚志
日本史 犬丸征一郎
8/8(日) 英語(2) 妹尾 真則
理系数学 荻野 暢也
古文 堀内 剛史
世界史 佐藤 幸夫

※準備のできたものから、順次掲載を行っております。
現在準備中の講座につきましては、今しばらくお待ちください。

2021夏期 授業法研究ワンデイセミナー「質疑応答集」


岡島 光洋
化学
【7/31(土)実施】

授業を自作プリントで進めています。生徒からの評判も良く授業スピードも上がるので重宝しているのですが、試験勉強の際にそのプリントしか勉強しない生徒が増えて困っています。プリントでは基礎的な内容を整理しており、発展的な内容については教科書も併読するように伝えてはいるのですが、浸透しません。
最近の教科書はページ数が多いため、生徒にとってはどこがポイントなのかが分かりにくくなっています。理解を助けるための読み物や発展事項と、本文の重要事項との区別がつかず、取捨選択ができないのではないでしょうか。したがって、「試験ではプリントにない教科書の記述も範囲に入れるが、学習の順序としては、まずはプリントの復習から入れ」でよろしいのではないでしょうか。①プリントの復習⇒②教科書で調べる⇒③問題集を解く⇒④わからないところを質問する のルーティンを勧めるということです。自信のある生徒には、「③から入れ」で良いと思います。逆に、試験対策でプリントを復習してくれるというのは、先生のプリントが最も的を得ていることの表れなので、自信を持たれて良いのではないかと思います。「重箱の隅」は、受験勉強の問題演習で拾っていくほうが、重点思考で良いのではないでしょうか。
高校での化学教育において実験を積極的に行うべきでしょうか。可能であれば沢山取り組ませたいとは思うのですが、説明や解説に時間が奪われてしまい、問題演習の時間が確保できなくなってしまいます。岡島先生の考えをお聞かせください。
実験といっても、生徒にとって「楽しいだけ」の実験は、あまり教育効果がないのではないかと思います。しかし、生徒が「何をやっているのか」をちゃんと把握してくれていれば、体験として記憶が強烈に保持されるため、実験を行う効果は高いと思います。「どんな実験ができるか」ではなく、「何を焼き付けたいか」という視点で取捨選択し、授業のときにもその映像を適宜見せてやれば、授業を聞いて問題を解く(生徒にとっては味気ない)学習法よりも教育効果は上がるはずです。我々はどうしても、「扱えるかどうか」で進行を考えがちですが、「記憶に残るかどうか」で考えるべきではないでしょうか。しっかりとした記憶の核の部分を作ってしまえば、あとの部分の説明は、IT教材でサクサク流せるのではないかと思います。
化学基礎でどのくらいまで指導すべきか悩んでいます。例えば、電気分解は発展内容として一応教科書に掲載されています。こうした発展内容について、化学基礎ではどのくらいまで解説すべきでしょうか。
化学基礎で満点を狙うのであれば、発展内容や「化学」の内容まで知っておくと良いですが、それは上位国立を目指す生徒でさえ負担となってしまいます。文系の生徒であれば、発展内容や「化学」の内容には触れず、化学基礎の通常範囲をしっかり教えるのが先決なのではないでしょうか。私は、電気分解については、生活に関連する知識として、「電池の逆反応で、充電もその1つである」こと。「イオン化傾向の大きな金属も、電気分解で単体にすることができる」ことくらいに触れるだけです。電池も同様で、イオン化傾向のところで原理を教えたら、あとは「世の中でどう使われているか」だけを教えています。詳しい反応や電気量には、文系化学基礎ではいっさい触れません。 
高分子分野の指導に時間を割けないのが悩みです。アドバイスをお願いいたします。
時間的にあまり触れられない合成高分子については、私は、入試に出る順でカードを作ります。これでモノマー、ポリマーの構造、重合様式、主な用途を覚えさせます。高校の通常授業では、そこに付加重合と縮合重合の反応、ゴムの加硫、イオン交換樹脂の反応、分子量と重合度の関係をつけ足しで説明します。また、知識が定着するように、「レジ袋=低密度ポリエチレンと、ポリ容器=高密度ポリエチレンの違い」で結晶性と強度の違いを導入し、その後、合成繊維のところで「強く、かつ、しなやかな材料をどうやって作ればよいのか」と考えさせます。その後、問題演習の形で、ビニロンや熱硬化性樹脂を作る反応、共重合の計算問題といった、応用性の高いものをつけ足していきます。
担当している生徒の中には、数学も含め理系科目全般が苦手な生徒もいます。岡島先生であれば、そうした生徒たちをどのように指導してきますか。
これはそう簡単には答えられない問いだと思います。理系科目が苦手なのに理系に来てしまった生徒は、つきっきりで教えても、多くの場合、やがて文転してしまうか、生物のみでの受験にシフトしていきます。もし、クラス全員が苦手な生徒ばかりである場合は、まず徹底的に学習させる範囲を絞り込み、知識穴埋めなどの単純作業から入らせ、計算問題は解法をパターン化して覚えこませます。応用力がつきにくい教え方であるため、上位大学の受験問題を解けるようになるまでには相当な時間がかかります。いちばん大変なのが「玉石混交」のクラスです。せっかく実力を持った生徒がいるのに上記のように教えてしまうと、受かる生徒が受からなくなってしまいます。また、苦手な生徒は気後れして質問に来なくなってしまいます。代ゼミの場合は、サテラインを含めると、同じ講座を何人もの講師が担当しているので、各自に合った教え方をする講師に時間割変更してもらうことによって対処しています。


蔭山 克秀
倫理政経
【7/31(土)実施】

公民科目を受験で使用する場合は、倫政・政経・現社などいくつか選択肢があるのですが、「こうした性格の生徒はこの科目を選んだほうがうまくいく」といった経験則があれば教えてください。
政経が「社会を外面からとらえる」科目、倫理が「人間を内面からとらえる科目」である以上、科目選択もそれらに対する興味の有無から行わせるのがよいと思います。つまり非常にシンプルですが、政経好きの子は政経を、倫理好きの子は倫理を選ぶべきです。以前、政経好きの子が「先輩に、倫理の方が点が取りやすいからお前も倫理にしろよと言われたので、倫理に変えました」と言ってきたことがありましたが、残念ながらその子は、ソクラテスやデカルトが話すことの意図を理解できず、ただただ混乱していました。このように、政経・倫理は「人を選ぶ科目」ですので、可能ならばその子が初見で「面白そうだ」と感じた方を選択させてあげるようにしてください。ちなみにこれまで「どちらも面白そうでない」という子には、会ったことがありません。公民には、科目自体の面白さは確実にあります。
蔭山先生が授業を展開していく中で一番注意していることはなんでしょうか。
質問主旨と少しずれるかもしれませんが、「どの単元も面白い」と思ってもらうことを心がけています。例えば政経の国民所得や倫理の儒教などは、はっきり言って面白みの薄い単元ですが、それでも「すらすら解けるようになる」ことができれば、そこにはなかったはずの面白さが生まれます。私は、公民上達の秘訣は「面白さに気づくこと」と「解けるようになること」だと思っているので、そこに導けるよう、つまらなそうな単元ほどわかりやすさと解答力の定着を意識して教えています。そのおかげで、私の国民所得の授業は、みんな面白いと言ってくれますよ。
授業時間が週1回50分に限定されています。出題傾向に合わせて重要項目に絞った指導を心がけていますが、他に工夫できるポイントがあればアドバイスをお願いします。
いいですね。他科目よりも割り当てられる時間の少ない公民では、限られた時間の使い方に工夫をこらすことが何よりも大切です。私ならばそれに加えて、「自習用プリントの作成・配布」と「習った単元の用語集チェックの指示」などをすると思います。あと、夏休み前には憲法のプリントを、冬休み前には簡単な時事のプリントを配ります。与えられた時間が少ないとぼやくよりも、必要なプリント作成と、生徒の自主トレ箇所の指示を適切に出してやりましょう。公民ではそれも重要な授業の一部だと思います。
GAFA規制の賛否について議論させるなどの「主体的・対話的で深い学び」を授業中に実践しています。ただ、その際に中立性を担保できているか不安です。どのような点に注意すればよいでしょうか。
アクティブラーニング的な授業は、代ゼミの受験科では行わず、私の場合帰国生クラスで実施していますが、生徒同士で議論させる際、私自身が中立でいようと思ったことはありません。私が気をつけているのはただ、話題が左傾化したらちょっと右寄りの意見を入れて右に引っ張り、右傾化したら左に引っ張るという作業だけです。そもそも「中立とは何か?」がはっきりしない以上、中立の立場というのはめざしようがないと思います。だから我々は、あくまでディベートの審判者として、話題に偏りが出ないよう気をつけてあげればいいと思います。
共通テスト開始により問題傾向・形式が大幅に変化し、思考力・判断力が問われる問いが多くなった中で、教科書に掲載されている知識事項を授業でどこまで重視すべきでしょうか。新形式に対応する必要性を感じながらも、授業において知識事項を軽視してしまうと、かえって得点力が低下してしまうのではないか、というジレンマを抱えています。
第1回の共通テスト公民3科目を解いてみた率直な感想として、政経・倫理・現社とも、知識問題はかえって難しいものが増えています。出題形式も、旧センター試験と同じ形の問題が半分以上でした。一方、思考力・判断力を問う問題は思ったほど多くなく、しかも解いてみると案外簡単な問題が多かったです。ただし政経のデータ読み取り系は、かなり頭が疲れました。結論として、今後も知識問題は思いっきり重視してください。私はそうしています。逆に思考力系は対策のしようもないため、日頃から資料集のデータや資料を能動的に読むようなトレーニングでいいと思います。もしまだ共通テストの本試験を解いてないなら、ぜひ解いてみてください。そしたらわかります。結局、今まで通り内容理解と知識定着こそが、得点への近道だと。


鈴木 勝博
小論文
【7/31(土)実施】

船口  明
小論文
【7/31(土)実施】

小論文添削の際に、添削者が気をつけるべきポイントをいくつか教えていただけるとありがたいです。
<鈴木 勝博>
まず、添削対象者の学年を考えます。1年生なら「嫌いにさせない」ことが大切です。そして、小論文が書けそうだ、楽しそうだぞと思わせる工夫が必要です。3年生なら実際の入試を想定し、「合格する」レベルの文章内容に引き上げるための指導がポイントです。小論文を「書かせる目的」を明確にし、その学年の目的にあった添削をします。これが学校現場で添削する際の前提です。次に赤ペンを握ってからの指導です。第一の添削ポイントは、「設問を正しく把握しているか」です。小論文は自分が書きたくて書く文章ではありません。相手の要求にこたえる文章です。従って、その要求を正しく把握し、それにズバリとこたえる文が入っているかが最大の添削ポイントです。それは第一段落に現れるべきです。文章の型といってもいいです。最後に、提出された紙を直すのが添削ですが、紙に書く前の段階をいかに指導するかが最も重要です。生徒に設問の正しい読み取りの仕方を指導し、それに対して自分はどう答えるか、そしてその根拠はなにか等、文章を書く前のメモ書きが大切であることを指導します。そのメモの段階で関与する指導法もあります。つまり、結果にコミットするのではなく、途中に、あるいは書く前の段階でコミットする指導です。ここが充分であれば、書かれた文章は破綻のないものになります。


<船口 明>
添削はとても労力を要するものです。それだけに「負担だけあってあまり効果はなかった」という状態になってしまうことはできるだけ避けたい。そのためには「添削のための添削」をしないことではないかと考えています。要は「目的を持って添削する」ということです。生徒が書いてくる答案です。直したいことが山ほどあるのは当然だと思います。でも、それを全て丁寧に書き込んだところで、生徒が消化できるはずがありません。我々の努力が無駄になってしまうであろうことは、容易に想像できます。だからあえて「書くことを絞る」。添削する学年や時期、生徒や志望校に応じて、添削のポイントを柔軟に絞り込んでいく。「まずはこれができるようになってくれればいい」という目的設定のもとで添削することが重要だと思います。負担は多いですが、それだけに生徒が描けるようになった時の喜びは一入です。頑張ってください!!
志望理由書を書く際に準備しておく能力・練習はどんなものがありますか。いきなり書かせるのは難しいと感じていますので、2年生の間にどんなことに取り組んでおけば志望理由書を書く際に役に立つのでしょうか。
<鈴木 勝博>
志望理由書の基本構成は、①何を学びたいか、②それを学びたいのはなぜか、③それを学んで将来何がしたいのか、④その為になぜその大学でなければならないのか、です。単純なようでいてこの一つひとつの項目を説得力も持って書くのは容易ではありません。ましてや出願が決まった3年生の9月に書くのは大変です。そこで、今回の質問にあるように、2年生の間の取り組みが重要になります。まず、項目①と②の関係をしっかり作ることです。特に②が重要です。学びたい「きっかけ」を書く程度ではいけません。それを学ばなければ死んでも死にきれない位の理由、それも学問的理由が必要です。この部分を埋めるため、「足で稼ぐ」方法があります。つまり、実際に志望校に行って聞いてみるのです。対面が無理なら、メールで質問してもいいでしょう。そういう自らの動きが志望動機を強くしていきます。こういう活動ができるのが2年生なのです。さらに、自ら動くことによって、志望校の魅力が増してくれば、④を熱く書くことがでできます。
学力が低く、論文を一切書けない生徒がほとんどのクラスの担任をしています。勉強はもちろん、読書もほとんどしていない生徒たちに対して、志望理由書や小論文、面接指導をどのようにすればいいのか本当に悩んでいます。どういう所から指導していけばよいのか、指導のポイントなどがあれば教えて頂きたいです。
<鈴木 勝博>
私もそのようなクラスの担任をしたことがあり、先生のご苦労が痛いほど分かります。こういうクラスでは、いかにして「のせる」かがポイントになります。なぜなら、皆できなくて、自信がなくて、挫折した経験が多いからです。そこで、短文を書かせ、良い作品や腹を抱えて笑うような面白い作品をプリントして、先生が読み上げて紹介しましょう。聞いた生徒は良い反応をするはずです。他の生徒が「そういうのでいいんだ」「じゃあ、次は俺が(紹介されるように)狙ってみるか」となってくれれば軌道に乗ります。勿論自分の文章を紹介された生徒には自信がつきます。こういうスモールステップから始め、書く事への抵抗感を取り除き、次の段階に進んでいきます。その途中で新聞の読み方を教え、何が問題としてあるのかを知り、それに対する専門家の見方を学び、自分の意見を決めていくという階段を上ります。全く書けないと言っていた生徒達が変わり始めるはずです。
近年大学入試における学校型選抜や総合型選抜の割合が増えていますが、これらの入試形態と一般入試のための対策をバランスよく行うには、どのような指導をすれば良いでしょうか。一昔前は一般入試で定員を確保する大学については学力試験対策にのみ注力できましたが、最近は推薦も一般も同じくらいの比率で定員を確保するという大学も増えており、小論文指導もしなければならず、学力試験の対策もしなければならずで苦慮しています。
<船口 明>
一般入試の生徒には〈選択肢の見方〉や〈空欄問題の解法〉などを教えないといけない、推薦入試の生徒には〈小論文の書き方〉を教えないといけない…。先生方が対策に大変な状況はよくわかります。この状況にきちんと対応するとなると、やはり付け焼き刃では立ちゆかないと思います。複数年での計画を、何とか形にしたいものです。それが可能であれば、「1.低学年時から〈書く基本〉と〈読む基本〉は身に付けさせておく」→「2.三年生になった時点で『実戦的な〈小論文指導〉と〈受験現代文指導〉』に入る」という自然な流れができます。その時、今回の講座でお話しした様々な手法を生かしていただけるはずです。大変でしょうが、それが「生徒にとっても自然」すなわち「伸びやすい」はずです。頑張ってください!!
1・2年次のうちにある程度小論文指導の下地作りができればと思っています。早期からできることは何かないでしょうか。
<船口 明>
受験学年の小論文指導にあたって苦労することの一つに、「文法的に誤っている文の修正」と「論の構成や内容レベルの指導」の両方をしなければならないことが挙げられると思います。それを考えると、低学年時に、ぜひ「文法的に正しい文を書けるように」指導されておいてはいかがでしょうか。これは全科目を通じて、さらに学級日誌等を通じてでも可能になることですので、学年全体で、さらに次年度との継続性を考慮しなくても取り組めるものだと思います。「主語と述語」「係り受け」など、短文をきちんと書けない生徒は多いものです。これを全科目で意識して修正していくことは、後々大きな力になると思います。


大町 尚史
生物
【8/1(日)実施】

目新しい題材について。入試で出題されると教えないわけにはいかないのですが、結果として年々教える内容が増えてしまって時間がありません。どうしたらよいでしょうか。
私も同じことを実感しています。
毎年、ノーベル賞関連のテーマや近年の論文を扱った問題、時事的な内容が出題されます。例えば、2022年の入試では、mRNAワクチンを題材とした問題が予想されます[TRLの認識を回避するためのm1Ψに置換されたmodRNAの利用、中和抗体産生を促すための変異の挿入(K986PとV987P)、LNPによるmRNAの内封など。これらは2021年の大学編入試験および大学院入試問題で出題されています]。
mRNAワクチンの開発には生物学の最先端技術の粋を結集させています。このようなテーマの場合、仕組みや狙いを事前に頭に入れておくと圧倒的に有利です。一方、目新しいテーマでありながら、特別な知識がなくても解答できる問題も少なくありません。
これらを見極めて授業時間を配分できます。以前はしばしば出題されたものの、今ではほとんど入試で問われないテーマを簡潔に扱うことも大切です。
志望校の過去問についてはどのくらいの時期に何年分を取り組ませるべきでしょうか。大町先生の考えを教えてください。
過去問題からその大学の作問方針をある程度知ることができます。例えば、「5年以内に出題したテーマは再度出題しない」、「2社以上の教科書に掲載された内容のみ出題する」、「発展的な内容からは出題しない」、「平易な内容の設問を1/3は加える」などです。
また、過去問を演習すると、難易度や時間配分などの感触をつかめます。
ただし多くの場合、同じ大学で二度と類似の問題は出題されないため、あくまでも参考程度に用いるとよいのでは。
むしろ、生徒一人一人がいろいろな大学の過去問題を活用し、自分の苦手分野を集中的に演習することをお勧めします。そうした勉強は、「入試での的中を狙う学習」よりも、真の実力向上に役立ちます。
生物の「思考力」のとらえ方がわかりません。実験からの考察を「思考力」ととらえてよいのか、それとも、最近実験を計画する問題も出ていますが、計画することが「思考力」なのか、それとも他にあるのか、考えが絞り込めずにいます。
「思考力」とは考える能力のことです。判断力や推理・考察力、解析力、計算力、理解力など、多くの力を包含しています。
実験考察型問題を解く過程は、推理小説を読み進めて犯人を当てる過程とよく似ています。問題文を一語たりとも飛ばさず、情報収集すること。図表データを正確に頭に入れること(キャプションや軸を含めて)。そして、作問者の思い描く問題の流れに乗り、一歩ずつ思考を重ね、すべてを矛盾なく説明するストーリーを構築することです。複数の仮説が考えられる場合、検証すべき事柄を見極め、実験をデザインする能力も問われます。洞察を働かせて思考する過程は大変に面白く、これが生物の考察型問題を解く醍醐味です。
こうした楽しさを生徒に伝えるのに適した過去問題を探してください。必ずしも問題文が長い必要はありません。生徒にとって適切な難度の問題を選択しましょう。自信をもって語れるよう、とことん準備することが大切です。
知識のつめこみ中心の授業になってしまいます。アドバイスをお願いします。
知識は思考するための土台です。学んだ知識をどのように活用できるか、いつでも生徒に考えさせましょう。
一例を挙げます。ミトコンドリアの電子伝達系を解説したとします。H+の電気化学勾配からなる駆動力を最終的にATPの化学エネルギーに変換することを教えます。
その際、「もしもH+が内膜を漏れやすくなったら?濃度勾配は大きくなる?小さくなる?変わらない?」。大抵の生徒はすぐに「濃度勾配が小さくなる」、「ATP合成酵素内を流れるH+が減る」、「ATP合成速度が下がる」という結論を引き出せます。「では、ATP合成に利用されなかったエネルギーはどうなるのかな?」。こう尋ねると、一部の生徒が「熱になる」ことに気づきます。そこから、「生物基礎」の教科書に載った褐色脂肪細胞による熱産生の話や入試によく出題される脱共役剤の実験に話を広げます。
授業のあらゆる場面で、このように考えさせながら講義を展開しています。
教室内の授業で、なかなか生徒たちの意見交換ができません。一部の生徒はするのですが・・・どうすれば改善できるでしょうか。
大切なのは、先生の問いかけに対して生徒全員がしっかりと頭を働かせることだと思います。積極的に発言する生徒とおとなしい生徒がいますが、皆が何らかの形で議論に加われます。易しい問いかけを重ねて思考を刺激して下さい。二択または三択の質問を提示すると、答と思う選択肢でうなずくようになると思います。また、各自の意見とその理由を簡潔にノートに書かせるのも有効です。私の場合、サテラインで収録されている講義であっても、ライブで参加している生徒の答を見て回ります(ただし、今は感染症の予防の観点から生徒との距離を確保しており、離れたところでノートを見せてもらっています)。
心掛けているのは、間違えても気まずい雰囲気にしないことです。きっと、先生と生徒の双方にとって、とても楽しい授業になると思います。


中川 雅夫
物理
【8/1(日)実施】

ベクトルや三角関数の微積分など、数学の授業に先行して物理で扱うことも多く、どこまでを物理の授業で扱うべきか悩んでいます。アドバイスをお願いいたします。
私はベクトルや三角関数、微分・積分といった数学は、「物理の道具」として、必要な範囲で説明して使うという立場で指導しています。数学的厳密性より、物理現象との関わりから概念をできるだけ具体的に説明しようと思っています。物理現象を表す手段として用いて、現象や関係式を数学的に表すとこんなに便利になると示すことを心がけています。数学的扱いに具体的なイメージが出来るので、数学での扱いの入門としても役に立っているようです。
生徒への定着ができずにいます。以前は基礎を丁寧にやっていましたが、模試や入試に対応できず現在はレベルを上げています。結果として生徒の二極化が進んでしまいました。文章の読み取りが弱く、問題が解けない生徒が多いです。アドバイスをいただけますか。
水泳などスポーツの指導に「全習法」と「分習法」があります。水泳で言えば、取り敢えず泳がせながら修正していく方法とバタ足、蹴伸び、手の練習、…など順番に進めていく方法です。生徒のレベル差があるときに「分習法」的に指導しようとすると、指導段階が異なり非常に苦労します。そこで、「全習法」的な指導が有効になります。具体的には、問題文の読み方と式の意味を日本語で表すことを指導します。問題文のどこに着目すれば解くヒントが得られるのか見出す練習をします。できる生徒に見られるケースですが、考えられる式を並べて試行錯誤をして解いていて、問題のヒントを用いていない場合があります。一方、あまりできない生徒でも着眼点を見つけるのは上手な生徒がいます。もう一つ、式の内容を日本語で表してみることも指導します。できる生徒でも式の意味を説明できない生徒がいます。苦手な生徒では式の意味が解り「日本語で解く」ことができると得点力がアップします。
物理が好きであったり、進路上必要であるので熱意を持って勉強しているにもかかわらず、テストの得点に結びつかない生徒や問題が解けない生徒がいます。こうした生徒にはどう指導すべきでしょうか。
頑張っているのになかなか物理の得点が伸びない生徒を毎年のように見ます。知識や練習量は十分で、一緒に考えると上手に解くことのできるのですが、模試などの点が伸びない生徒です。原因は端的にいえば、「使える基礎力の不足」です。このような生徒に先ずやって貰うのが、基本問題を反射神経的に解く練習です。頭で考えるのではなく、自然と手が動く感覚で素早く解くことを求めます。これだけで得点力が伸びる生徒もいます。通常はこれがある程度進んだら、問題の流れを辿ること、問題を声に出して解説してみることを勧めます。出題者が何を聞きたくて問題を作成したか、あるいは問いの物理的ポイントは何かをしっかり押さえるためです。できる生徒は、解法を消化しないで丸呑みしていることが多くあります。そのため、その問題は解けても類題は解けないことになります。そこで、飲み込んだ解法をバラバラにする方法の一つが、声に出して説明することです。
模擬試験はどのように復習させるのが最も効果的なのでしょうか。
模試の復習は重要であることは共通認識ですが、復習の方法となると、生徒の個人的な特性もあり、「最も効果的」に対する答えは難しいと思います。そこで、私が指導していて効果が出ている方法を紹介します。模試で出来なかった所を、①知識などは足りているが、力を出せない②知識がもう少し③しっかり学習が必要、の3レベルに分けて対応するというものです。具体的には、模試の解答・解説を見て直ちに理解できた所は①、じっくり読んだらわかったという所は②、なかなか理解することができない所は③とします。①の場合、どうすれば身に付けた力が出せるようになるか、具体的な方法を考えさせます。②の場合、短期的な目標として「今までに学習した類題の復習」「関連項目の集中演習」など成果の出やすさを意識した学習を計画させます。③の場合、長期的な計画の中に組み入れて学習計画を立てさせます。
物理を初めて学習する生徒を指導する際に、注意すべきポイントはどこでしょうか。
初めて学習する生徒は、期待感、不安感など様々な感情を持って授業に臨むと思われます。丁寧に教える、興味が持てるように教える、無理のないように教える、など色々と注意すべき点はあると思います。ただ、私が意識しているのは「物理は楽しい」「高校レベルの物理は誰でもできるようになる」と伝えることです。確かに、他の科目はよくできるのに、物理で苦労する生徒はいます。しかし、苦しみだけではなく楽しさが感じられれば頑張れるものですし、そこが私の腕の見せ所と思っています。


宮路 秀作
地理
【8/1(日)実施】

共通テストに向けた指導で宮路先生が日々の授業で心掛けていることはありますか。
「知っていれば解ける、これ最強!」であることを意識させます。地理という科目は、どうしても「覚える量が少なくて済む」や「思考することが大事」などといった言説がまかり通っていますが、現実は異なります。知識が無ければ解けませんし、知識があるからこそ思考することができます。授業ではこのことを繰り返し伝えています。もちろん、「ゴールのないマラソン」が如く、闇雲に覚えれば良いというわけではありませんので、何をどこまで覚えておく必要があるのかは授業中に示しています。
本県は学校で地理の教員が基本的に1人であり、地理を専門とする教員がいない学校もあります。そのため地理総合を地理以外の教員が行う必要があるのですが、歴史や公民がご専門の先生方が地理の授業をされる上で少しでも不安を解消し、生徒にとっても充実感のある授業を展開していくには、地理を専門とする教員としてどのような準備をしておけばよいでしょうか。
我々が一番恐れているのは、数年後に「地理を必修化する必要はなかったかも……」という世論が形成されることです。そのためにも、地理総合の必修化、その重要性を多くの人に理解して貰う必要があると思っています。そのためにも、我々地理学プロパーがお手伝いできることがたくさんあると思います。「自然災害」と「GIS」が大きな柱となりますので、まずは日本列島がいかに自然災害が頻発する地域なのか、そしてそれをGISを使って明示していくことから始まると思います。GoogleEarthや地理院地図などのGISソフトを的確に使いこなせるようにしておくことが大変重要と思います。
どの授業か,どのレベルかという設定でも変わると思いますが,地理の授業の中で,歴史的な話題をどれくらい踏み込んで教えるとよいとお考えですか?
私は授業中に歴史分野の話を結構な頻度でしています。そもそも「地理と歴史は自動車の両輪のようなもの」であるので、どちらかが欠けても認識は深まりません。そのため、「地理を使って現代世界を学び、なぜそうなったのか?と歴史を紐解く」といったスタンスで授業をしています。各先生がお持ちの知見はそれぞれだと思いますので、「あっ! ここは○○の話をしておきたい!」と思ったときこそが最適なタイミングです。ぜひ、遠慮なさらずに「地歴教員」としてどんどん歴史の話をしてあげるべきと思います。むしろ先生方が自分がお持ちの知識を披露するくらいのお気持ちで授業に臨まれるべきです。
宮路先生が授業力向上のために日々取り組んでいることがあれば教えてください。
地歴という科目の特性上、我々は「ストーリーテラー」であるべきだと思っています。いかに面白い授業を展開できるかを考えた場合、生徒が日常で見聞きする話にいかに繋げるかが重要です。もちろん、それを基礎として「こういう話もあるよ!」といった発展的な話もしてあげたいと思っています。生徒は賢くなりたいと思って勉強するわけですから、いかに知的好奇心をくすぐってあげるかという観点が大変重要です。教材はあくまでも二の次。まずは授業中に「何を話して聞かせるか?」が充実していなければなりません。
ケッペンの気候区分の判定における乾燥帯(B気候)の扱いについてです。乾燥帯の判定を生徒に教える際、乾燥限界値まで教えることがベストと思うのですが、生徒が困惑することや時間の制約もあり最良の指導が自分の中で固まりません。アドバイスをお願いいたします。
乾燥限界値については、以前に大阪大学前期試験地理にて出題例があるくらいで、ほとんど見かけません。さらにケッペンの気候区分は、もう何十年も前の知見であり、今や沖縄県の一部の地域に熱帯雨林気候が展開するような時代です。「本来、同じことが続くことこそ異常なこと」ですので、何十年も前の知見を教えることはそれほど重要なことではないと思います。多くの方が「乾燥気候は、500mm未満を目安とする」と教えていらっしゃると思いますが、それで良いと思います。その自然環境を土台として、地域住民がどのような暮らしをしているかを紐解いていくことこそ重要なのだと思います。


富田 一彦
英語(1)
【8/7(土)実施】

現在の2年生ですが、昨年コロナの影響で6月まで休校で、その期間を自学自習をさせていました。その影響で、文法の初期段階(文型)がほとんどできていません。授業の中で補っていますが、なかなか追いつかない状態です。夏休みに補習をする予定ですが、自由参加にするので間に合わないと推測しています。3年生までに何とかしたいと思いますが、何かアドバイスを頂けますと幸いです。
自学自習に任せると生徒諸君の意識の差が大きく表れてしまうため、成果にばらつきが出やすいですね。お察しいたします。ただし、我田引水でおかしな勉強をしてしまうのも考え物です。その意味では、どこかでしっかりと正しい認識を共有してもらうのはよいアイデアだと思います。ただ、その際、教職員の皆様の間でコンセンサスをとる必要がありますね。私のように個人ベースで好きなことをしているだけの人間には、この件に関するアドバイスは難しいです。ただ、何とかすべての皆さんを説得して、授業時間内に文法の概説をちゃんと組み込む必要があることだけは間違いないと思います。
公立高校勤務です。高校1年生に教える際と、一応高校英文法は既習であるはずの高校2年生・3年生に時制を指導する際に、指導を変えられる部分はありますか。
もちろん全く違います。ただ、ここで罠になるのは「既習」の実態です。教わったことがある、と理解しているの間には雲泥の差があります。私なら1年生にはほぼ文法を3か月程度でしっかりインストールしてから、文章の読み書きに集中させると思います。3年生なら受験対策だと思いますので、問題の解き方に集中します。その時、1年でやった文法事項がしっかり身についていないと全く太刀打ちできなくなります。ただ、生徒さんたちは年齢とともに意識も変わるため、おそらく1年生の時はさほど熱心に勉強をしないでしょう。であれば、むしろ短期促成で2年次後半から文法を総ざらえし、その後比較的丁寧に文章を読む時期を数か月挟んで3年の2学期からは問題解法に集中、というのがいいと思います。
英語における時の感覚と日本語における時の感覚の違いについてどのようにお考えですか?
日本語には「時制」という意識自体がありません。なので、「感覚」で考えるのは無意味ではないかと思います。時制に限らないのですが、自分に実装されていない「感覚」を理解するにはまず理論的理解から入るしかないと思います。今回のテーマは時制でしたが、もしかすると先生方の中にさえ、こういう話が初めてだったり、聞いてもピンとこなかった方もおられるのかもしれません。英語について、単なる「感覚」で入るのは実はとても危険であると考えています。
昨今の英語教育改革について、長年予備校で生徒を指導してきた富田先生としては、どのようにお考えですか?
そもそも「中学生・高校生になぜ英語を教えるのか」に関して、まったく腰が定まっていないと思います。実際の生活において、英語が必要であることはほとんどありません。日本語ですべてが事足りるのは、幸福なことだということをまず認識すべきであり、それを抜きにして、英語ばかりもてはやすのはどうかと思っています。よく、英語が国際語だから、と言いますが、国家間の付き合いは常に戦いであり、どの言語で進めるかを決めること自体がもう戦いの一部です。言語という基本部分を平気で相手に譲り渡していいと考えること自体、すでにその国家を指導するに足らない根性なしだとさえ考えることができます。また、実用英語という点に関していうならば、それこそグーグルあたりが近い将来問題を解決するでしょう。大人になるまで、営々と使いもしない外国語の勉強を続けてきて、社会に出て数年たったら、外国語はAIが何とかするからいらないよ、と言われたらどんな思いがするでしょうか。もちろん、私は英語教育がいらないと言っているわけではありません。ただもっと根本的で知的な視点から、どうして英語を勉強するのかを考えることが、一定年齢の日本人全員に英語の勉強を強いるのであれば必要な前提だと思います。
高等学校教員です。生徒に文法を教える際、ある程度どうしても『暗記』という側面が強くなってしまうかと思います。英語が好きでモチベーションの高い生徒はもちろんですが、小中で英語に苦手意識を抱いてしまった生徒にも、ただ丸暗記するのではなく「できる」「分かる」という確かな理解を実感してもらいたいと思っています。何かアドバイスをお願いいたします。
一つお伝えしておきたいのは、「できる」ようになることは決して単にうれしいことではないということです。成長するということは、それまでの自分の一部を否定するということです。自分を否定されてうれしい人はいません。大人たちの多くが成長をやめてしまうのは、否定されることを強く嫌がるようになるためです。「苦手意識がある」というのは、英語のことではなく、実は「できない自分」と向かい合うこと、つまり自己を否定されることを嫌がるという行為です。ですから、英語に関していくら工夫してもほとんど改善されないでしょう。自己否定そのものに肯定的意味があることを認識させることが実は大事だと思います。


貫  浩和
文系数学
【8/7(土)実施】

3年生担当ですが、数学の学力差が大きく、授業で一般的に販売されている問題集を使用するには、ついて行けない生徒が多いのではということで、職員の意見で自作のプリントを使用しております。貫先生は、教材作りでどのような点に気をつけていらっしゃいますか。
各単元における一通りの思考の仕方が学べるような、核となる問題を選ぶようにしています。授業で扱う問題に関しては、極力自分の教えたい内容がメインとなって、焦点がボケないようなシンプルな問題を選びます。家庭学習用教材としては、授業の内容を聞けば出来るような問題や、それを少し応用した問題、他ジャンルとの融合された問題を、クラスレベルによって考えます。授業という限られた時間の中で全てを紹介することは難しいので、一度は経験して欲しい入試問題を、家庭学習用の問題として取り入れます。
公式の成り立ちを理解することに意欲を持たない生徒への動機付けにどのようなものがありますか?
数学は、たくさんの公式を覚えて、たくさんの解法パターンを暗記したところで、応用力は身につけられません。教科書レベルの問題でしたら、暗記数学でも対応できるかもしれませんが、入試まで見据えている生徒にとっては、不十分になると思います。そこで私は、実際の入試問題において、公式の内容を理解していなければ解けないような、公式の中身が問われる具体例を用意します。そして、公式の成り立ちや内容を理解させることの意義を伝え、説得力を持たせます。それによって、根本が分かれば覚えることが少なくなり、深い思考の仕方を身につけることで、より多くの問題が解けるようになると思います。
丸暗記にならない理屈の理解ができるような指導法ができればと考えています。何かアドバイスをお願いいたします。
問題の解き方に一貫性を持たせ、根拠を伝えることを心がけています。パターンにあてはめるわけではなく、問題が変わったとしても、思考できるような考え方を身につけさせることを目指しています。そこで、なぜその公式を使ってそのように考え解答するのかという根拠は、定義に基づいて決まると考えています。ただ単に結果論を伝えるだけでも授業は成り立ってしまいますが、それは私たちがそのようにすれば解けることを知っているからです。よって、問題に初めて向き合う生徒には、定義やルールから自然と思考できるようになることを目指した、根拠をきちんと伝えられる授業こそが、丸暗記に頼らず説得力を持たせるために重要なことであると考えます。
私立の中高一貫校で講師をしております。普段の授業について教科書の内容の原理に時間を割きすぎると問題演習が疎かになり、解き方を重視すると生徒は解けた気にはなりますが、原理を軽んじてしまいます。その両者のバランスを取るためにはどのように指導すべきでしょうか。よろしくお願い致します。
クラスレベルが高ければ、授業では定義や法則、考え方を重視して教え、計算過程などは省略し、家庭学習で問題演習をさせます。一方でクラスレベルが低ければ、問題演習を自力で解けないことが多いため、授業で解説する時間が必要になるかと思います。加えて、例えば計算を軽減させる工夫や、ミスを生じにくい計算法といったことまで授業で説明する必要があると考えます。よって、クラスレベルに応じてそのバランスを考え、生徒の能力を最大限に育てるような指導方法が良いかと考えます。
現在高2生を指導しています。ある生徒が「私立文系志望だから数学は捨てた!」と言って、授業開始10分程度で寝てしまいます。こうした生徒にはどのように指導すべきでしょうか。
私も代ゼミに入る前、数学を受験科目としない生徒の多い学校で4年間教えた経験があります。入試科目に関係のない教科を教えることは本当に難しいことだと思います。実際に私は、数学の良さや楽しさ、偉大さ、素晴らしさを、数学の歴史にも触れ、自分自身が楽しみながら伝えました。高校生になると、内容が深くなり公式の数が多くなったことで、なぜ・どうしてという素朴な疑問を持たなくなり、ただ単位を取れれば良いと考える生徒が多くなっていると思います。そこで、そういった素朴な疑問を呼び起こすような授業を展開することや、なぜ勉強するのかといった意義、学ぶことに無駄はないことなどを教える必要があると考えます。


笹井 厚志
現代文
【8/7(土)実施】

入試問題の解説と違って、教科書には文章量が長い評論文や小説文があります。長い文章に対する授業が苦手です。どのようなことに留意して行えば内容の濃い盛り上がるものとなりますか。
入試問題の解説に慣れていらっしゃるとのことですから、ひとまずポイントを絞ってみてはいかがでしょうか。教科書の評論は、これまで通り段落ごとに主旨をおさえ、その上で大事だと思われる所、難しいと思われる所に傍線を引き、記述問題として問うという方法が良いと思います。宿題として課すのが良いでしょう。大切なのは先生御自身の答の確かさと、それを作るプロセスの明快さです。生徒を精読に導くのに、効果的な方法だと思います。
生徒が解いてきた記述問題を添削する際にどのようなポイントに留意すればよいでしょうか。
傍線部の説明で、「どういうことか」と問われているなら、傍線部内の言葉を、一語一語わかりやすく言い換えます。その際、文中にわかりやすく言い換えた表現があるのなら、それを使えばよく、なければ、自分で考えるしかありません。語彙力が必要ですよね。理由については、本文の中に、八割以上あると思ってよいと考えます。理由が書いてなければ、読者は読むのをやめてしまうからです。この「ぐ」=分かりやすい言い換えと、W=理由の部分が、採点ポイントになります。私はそれで採点します。もちろん理由の必要のない時もありますが、基本はこれです。「どういうことか」という問いで、理由まで書く場合と、書かない場合があります。それは字数制限で、どちらかわかります。私は、大概、理由まで書いています。不要だとわかれば、削るだけでいいからです。ただ、読解という観点からすれば、何故そう言えるのかまで書いた方が、より良く読めた、わかったことになるので、それを書くことを勧めます。
共通テストに向けた指導では、センター試験対策から何か変化させる必要があるのでしょうか。
今年の共通テストを解きました。問い方が少し変わっただけで、読解力が試されていることに変わりありません。大学が生徒に求めているのは、文献をよく読める力、精読の力です。大学が学問をする場である限り、それは全く変わりません。どうぞ、この基本をお忘れなく。その為に語彙を増やすことを、生徒に強く勧めて下さい。語彙力さえあれば、「ぐ」できる部分が、たくさんあります。語彙力をつけること、それが読解力をつけるのに、最も大切で、誰にでもできる方法だと思います。
精読を嫌い、すぐに解答を知りたがる生徒が増えてきている状況に悩んでいます。様々な手段を講じているのですが、これといった決め手がありません。アドバイスをお願いいたします。
一生懸命考えて、読めた時の喜び、わかったと思えた時の喜び、それを生徒に実感させる、目安は、なぁるほど、そうかと、素直にうなづけるかです。そうか、そうだったのかと思えたら、まずその読みは正しいと判断できます。易しめの問いで、是非生徒に体験させてください。読解できた時の喜びは、私達教える側の人間にとっても、読解の大きなモチベーションでありますよね。
生徒からしばしば「時間内に解き終わらず不安である」と相談されます。「まずは時間がかかっても正しい解き方と読み方を身につけることが大切」と励ましているのですが、他に何か良い問いかけはないでしょうか。アドバイスをお願いいたします。
模試でいい点数をとることを目的にはしてはいけない、今の自分の読解力で、解ける所まで確実に正解すればよい、と私は言っています。力がつけば、少しずつ多くの問いに正解できていきます。より点数をとろうとして、いきなり選択肢を見ることだけはしない、それは以前の、カンで選んでしまうというやり方への逆行です。試験の時は、傍線部の全てを「ぐ」する必要はなく、一カ所「ぐ」したら、それを根拠に、選択肢を絞るというやり方をします。


犬丸征一郎
日本史
【8/7(土)実施】

文化史の授業がどうしても単調になりがちです。何か工夫されていることがあればご教授願います。
文化史についてですが、私は作品名の列挙や暗記法などは一切しません。予備校における文化史講座は、時間数が短いことが多いのです。季節講習で、4コマ程度しかないことが一般的です。従って、教科書や用語集に書いてあることは基本的に扱わないと事前に伝えた上で、予習をして講義に臨んでいただくようにしています。講義では、時代ごとの文化の特徴や背景、それらを生み出した事情などを話し、政治史や経済史などとの関連を丁寧に伝えております。情報の把握は自学の範疇ですので、それを体系化するような講義を目指しています。とにかく、講義で私側が「暗記」というコトバを発しないようには注意しております。
定期テストの作問に毎回苦しんでいます。アドバイスをお願いします。
私も全国模試などを作成する際には同様の思いがあります。受験を念頭に置かれていることは変わりないと思いますので、山川の『詳説』をベースに作問すること、それから基礎的な設問は山川の用語集の赤字を基準としています。各種学説を入試問題で出題することはないはずですので、あくまで教科書を基本としますが、リード文は自分の蔵書から学んだ知識を盛り込み、面白くてためになる文章を書きます。あまり瑣末な「重箱の隅」的出題は生徒の意欲を低下させるとの考えがあり、思考に時間を要しても理解すれば解けるような出題が共通テスト対策にもなると思っています。
職場で中高生に日本史を教えております。中学校でどのような指導をすれば高校の日本史に上手に接続できるでしょうか。また、日本史に限らず、教員・中高生におすすめの本があれば紹介してください。
中高一貫校、高校受験を考えないとの前提で回答を差し上げます。中学教科書と、山川『詳説』教科書との内容差は生徒にとって驚異的なものだと思います。私が中学生徒を教えた際には、政治史・外交史に絞り、経済史・社会史は最低限、文化史は殆ど触れず、大学受験を念頭に歴史理解の核の形成を意図しました。敢えて『詳説』や高校の資料集を見せ、「大学受験ではここまで必要だ」との具体的な認識を持ってもらえるようにしました。野島博之先生の山川『中学から使える 詳説日本史ガイドブック』を活用なさるのもよいと思います。その上で、時代の景色を想起して親近感を持ってもらえるように、歴史マンガやNHK高校講座を活用しました。本は何でも興味のあるものを片っ端からと言います。岩波ジュニアや筑摩プリマ―のみならず、他の新書や山川リブレット、果ては音楽や映画、放送大学も薦めますが、著者や内容は己の責任で吟味します。
授業で論述を扱う場合のアドバイスをお願いします。
①教師がどのように準備して、②生徒にどのように指導するか、
それぞれのポイントをご教示いただけないでしょうか。
論述は、生徒さんの思考の癖や論理性など、その人に備わった能力そのものが問われる問の形式です。従いまして、あらゆる局面に対応するような汎用性の高い方法論が存在するのかについては疑問が残ります。①ご講義の前には、実際に問題を解くだけでなく、複数の観点からの答案を作成なさるとよいかと存じます。論述には唯一の正答がありませんから、同じ学校の他の先生と共同で答案を作成なさることなども有効かと存じます。②生徒さんに対しては、「答としての妥当性」「論理」「史実」「表現」の点から添削ができれば理想的かと思いますが、まずは何度も書いて、書いたものを持ってきていただいて添削を行う、という過程が重要と存じます。一問に対して、どれくらい深く思考し、格闘したか。その繰り返しが強さとなり、入試当日の論述答案の質を左右するものと確信しています。
日本史の教員として、新指導要領に向けて準備を進めたいと考えています。同時に、共通テストを意識した授業を行いたいと考えています。犬丸先生は何か工夫をされていますか。どのように取り組めばよいか、アドバイスをお願いいたします。
新要領に向けてとのことですが、私は講義において生徒との質疑応答を行っており、実はそれ以上のことは考えておりません。結局、暗記ではない一生モノの歴史的思考力や分析力、過去から学ぶ姿勢や視点を獲得してもらうことが重要だと考えるためです。共通テストも同じ観点から企画されたと思っておりまして、「大学に入るため」という貧困な考え方を何とかしなきゃいけないのだろう、と、自ら試行錯誤を続けております。疑問を持ち、議論を行い、関心を高めること、でしょうか。私は「入試に要る要らない」という論点がよくわからないので、そういう発想はしないでほしい、とはよく言います。雑談もよくします。押し付けでない話し方で政治の話もしますし、大学とは、学問とは何かという話は多くします。大学における学問や卒論について真剣に考えることで、日本史の力も上がるかもしれません。要は講師の個性なのだと思います。


妹尾 真則
英語(2)
【8/8(日)実施】

英作文や和訳の添削をする際、添削が終わった時点で生徒にここをこうすると良いと答えをすべて言ってしまうべきか、もう少し考えさせるべきかがわかりません。後者ですと、延々と考えさせてしまい、塩梅が分かりません。
和訳であろうと英作文であろうと、あらゆる記述問題に関して同じなのですが、原則として入試問題レベルの比較的長い問題や難しい問題の添削をする場合は、私は生徒の答案の間違っている箇所に下線を引いてあげています。一方、基本例文レベルの簡単な短い問題の答案には、間違っている場合、横に✕をつけ、間違っている箇所は指摘せずに自分で見つけるようにさせています。そしてこれも原則として、生徒に正解に達するまで何度も修正をさせるのですが、モチベーションの低い生徒や不安感の強い生徒の中には4回も5回も続く修正に耐えられない人もいます。問題のレベルと目の前の生徒の性格や置かれている状況などを考慮して、どの時点で正解を教えてあげるかをそのつど判断することが必要になります。そしてもちろん、多数の問題を解くよりも1問の答案を自ら修正するほうが学力が向上するということを生徒にあらかじめ理解させておくことが重要になります。
ここ数年で生徒たちの文法力が落ちているように感じます。高校初期の段階で何か手を打ちたいのですが、どのような文法指導が有効でしょうか。
セミナーでも述べましたが、高校1、2年生などの早い段階で英語の読み書きに必要な文法を身につけさせてあげることが重要です。そのためには英文法を体系的に理解を積み重ねる形で教えなければなりません。重要なのは教える順番とスピードです。すべての生徒が理解できるようにゆっくり確認しながら教えましょう。僕が代々木ライブラリーから出している『ピラミッド英文法~理解を積み重ねて英文法を身につける~』を使うのもひとつの手です。この本は、代ゼミにおける僕のオリジナル単科で20年以上、1学期の初めにやってきた内容をまとめたものです。僕の単科は英文読解・英作文の授業なのですが、その初めに基本文法を身につけておくことが必要になります。文法問題を解くための文法ではなく、読み書きの基礎となる文法です。生徒一人ひとりの頭の中に強固な文法のピラミッドを作ってあげることで、その後の英文読解・英作文の指導が効果を発揮します。
文法を身に着けるために短文のサイトトランスレーションや、その短文を暗唱させることは役に立つでしょうか?私自身はAll in one(Linkage Club)やDuo(アイシーピー)の短文を徹底暗唱しましたが、数百の例文を暗唱できる生徒の方が少ないのが現状です。
短文の暗唱は文法を身につけるというよりもコロケーションや言い回しを身につけるためのものだと思います。その目的でやる場合、短文の暗唱は役立ちますが、時間は無限にあるわけではないので、短文の暗唱よりも基本例文の作文をやらせてあげた方がよいでしょう。セミナーでも取り上げましたが、とくに文法を身につけるには基本例文の作文は大いに役立ちます。その前に、当然のことですが、基本文法をしっかり理解させてあげてください。『ピラミッド英文法』(代々木ライブラリー)を長期休暇に課題として読ませる、あるいは授業の中で生徒と一緒に読み進めるという方法もあります。また基本例文の作文の際には、質問1の回答にもありますように、生徒ができるまで何度も書き直しをさせることが重要です。基本例文の作文は、一度に多くの視点が試されるので、穴埋め問題や整序問題よりも、少ない問題で大きな成果を生むことができます。
4技能の重要性が叫ばれる一方で、文法とそれに基づく英文解釈が軽視されているように感じます。妹尾先生は文法や品詞の重要性についてどのようにお考えでしょうか。
セミナーでも詳しく述べましたが、文法や品詞は言語の根幹です。ネイティブスピーカー(母語話者)も当然、文法や品詞の知識を利用して言語を操っています。ただ、ネイティブスピーカーは、小さな頃から言語を母語として使用する中でそれを無意識に身につけ、利用していますが。日本語を母語とする人間が大学入試レベルまでの英文法をネイティブスピーカーのように無意識に身につけようと思えば、英語圏の国で10年以上、日本語を遮断して生活し、かつ知的活動をしなければ無理です。生徒たちにはそんな時間も環境もありません。だからこそ言語学習の初めに意識的に文法を身につけることが重要になるのです。僕はフランス語やドイツ語やスペイン語を学習する際に、まず初めに頭の中に体系的な文法を打ち立ててから実践練習に入ったので、短期間で身につけることができました。早い時期に生徒の頭の中に強固な文法を築かせてあげることがきわめて重要になります。
ICT化の影響で教材の電子化が急速に進んでおり、辞書の使い方も変化してきたように思います。妹尾先生は生徒たちにどのような辞書をどのような場面で引かせていますか。
原則として自分の子どもなど中学生には紙の辞書を利用させています。紙の辞書のほうが全体が見えますし、辞書のしくみを理解しやすいですから。でも高校生や高卒生には電子辞書でも紙の辞書でもどちらでもよいと言っています。それぞれ一長一短がありますし、紙の辞書を強要して引かなくなったら本末転倒ですからね。辞書の引き方は年度の初めに授業中に一緒に引いてあげることで身につけさせています。言語の学習には辞書が欠かせませんが、初学者の中には単語帳で代用しようという意識の低い人もいます。そんな生徒に辞書を身につけさせるには、一緒に引いてあげて「辞書を引くことはこんなに役立つんだ」という一種の“成功体験”をできるだけ多くさせてあげることが重要です。生徒には「知らない単語を引くだけでは素人だ。辞書が身につくと知っている単語でも引くようになる」と言っています。また「辞書は読むものだ」ということも繰り返し言っています。


荻野 暢也
理系数学
【8/8(日)実施】

予備校にて授業をする上で、生徒が盲点としている知識や公式などがあれば教えてください。
mod、内積の正射影としての意味、三角形の三辺が与えられているときのニ辺の内積(余弦定理からの変形)、シグマ、極限と絡めたデータの分析の扱い方、共通テスト対策としてのメネラウス、方ベキの定理などかと思います。
計算力の低い生徒の計算力を向上させたいと考えています。どのような教材を用いるのがよいでしょうか。
定期考査での出題の仕方が重要かと思います。授業でやった問題の数値替え問題を中心に出題すれば愚直な生徒の努力に応える事が出来ると思います。学校内では、能力よりも努力が評価されるような試験が良いと思います。その先に能力の向上があるのだと思います。
今年から数学の講師になった者です。荻野先生が講師になりたての頃に、特に力を注いでいたものは何ですか。また、”今の荻野先生”が”講師になりたての頃の荻野先生”にアドバイスをするとしたら何がありますか。
今でもそうですが予習です。若い頃はガラス窓を鏡にしてセリフまで作っていきました。今にして思えばそれより数学的内容に時間を割いた方が有益であったと思いますが。
昔の私にアドバイスする事があるとすれば、「いつか上手く行くから今のまま頑張れ」
「親の目線で指導しろ」
です。(^^)
荻野先生が講義をされる際に一番大切にされていることは何でしょうか。
間違えない事、受験生を騙さない事、目先でなくその子の将来を見据えてやる事。
でしょうか。板書ミスや言い忘れはよくやります。今回も一限の東大解1で対称性の利用について触れるのを忘れました。
Y=X^2+a X+bに対して
Y=(-X)^2+(-a)(-X)+b とすれば半減出来ますね。m(_ _)m
高1、高2などまだ受験に対して意識があまりない生徒についてどのような勉強法を提示することで、やる気になってくれるのでしょうか?また、そのような生徒にささる熱いお言葉などあれば教えていただきたいと思います。
受講していただきありがとうございました。
今の若い人は向上心、競争心が乏しく、安定さえしていればよいという考えの人が多いと思います。しかしその安定は以前に比べてとても手に入りにくいものになったと思います。それには平々凡々ではダメで、代わりの効かない人間になることが必要だと思います。
ですから他人が出来ない事ができるようになるとか、(プログラミングは何もない子にこそ学ばせるべきだと思います。)
まあ18歳の時点でそんな特殊能力は普通ないでしょうから少しでもいい学歴を付けてあげる事が必要だと思います。たぶん四年後ある程度の大学に行っていないと就職が難しくなると想像します。
講義でも話しましたが、教師に歯向かってくるような問題児は実は何の心配もいらず、寧ろ心配なのは愚直に真面目な子の方だと思います。生きる力の弱い子にこそ現実を伝えてあげる事が重要かと思います。


堀内 剛史
古文
【8/8(日)実施】

記述解答の指導を普段の授業に盛り込みたいと考えています。時間がネックなのですが短時間で実践的に行うにはどうすれば良いでしょうか。※生徒に問題集を渡すだけではうまくいかず、全員に添削を行うのは厳しいです。
まず、入試問題であれ、問題集であれ、一回の授業で一つの大問すべてを扱う必要はないのではないか、と考えております。例えば、記述問題を扱い始めた段階では、ひたすら現代語訳記述ばかり扱い、その後、内容説明→心情説明→理由説明(ここの順番はどこから始められてもいいかと思います。)などの説明型問題、最後に和歌に関する問題、など、大問ベースではなく、一つ一つの設問ベースで扱っていくのであれば、一コマの授業で一問扱うことも可能ではないでしょうか。ちなみに、(語弊のある言い方ではありますが・・・)私は生徒に「様々な設問を一気に解いて一気に解説を読むというのは、数学でいうとⅠAⅡBを全部解いて全部復習するようなもの(=成績の伸びる勉強の仕方ではない)」と言ったりします。しかしそう言うことで、各設問別にどう考えてどう解くべきかということへの理解が深まり、記述問題の答案作成能力が上がるように感じております。
ただ暗記させるのではなく、的確な読解につながるように文法を指導したいと考えているのですが、どうしても暗記主体になってしまします。アドバイスをお願いします。
私が学生の時、勉強する意味を見出せないことを暗記するのが苦手でした。また、そういうものをたとえやみくもに暗記しても、(定期試験では点数が取れても)時間が経つと忘れるものが多かったので、自分が教師になってからは、やみくもな暗記ではなく、「ここにつながるから覚えよう!」と後から役に立つことがあるということを意味づけするように心がけております。では、読解につながる文法指導において具体的にどうするかと申しますと、文法を覚えている最中の学年の生徒には、現代語訳記述の採点基準を文法主体にして、例えば、「ここで已然形+ばの解釈ができていると1点加点する」のように、覚えることによって文法問題以外でも加点されるようにして、「だから覚えることに意味がある」と意識づけするように心がけております。そうすることによって、文法事項の定着度が増したように思います。ご参考になれば幸いです。
古文常識をその都度教えており、体系的な指導ができていません。先生は古文常識をどのように教えていますか。
古文常識の体系的な指導というのは、私自身非常に難しいと思っております。まず、生徒自身に古文への興味がないと難しいでしょうし、古文常識だけを教えて覚えさせても、実際に文章に出てきた際、生徒が気づかないことが多かったように思います。ですので、私も文章中に出てきたことを都度指導しております。それをいくつか話していくと、生徒が「古文常識って、何を使って勉強すればいいですか?」と聞いてくるので、そのタイミングから、一つ古文常識がからむ文が出てきた際にある程度まとめて話すことが多いです。
生徒に基礎が定着しません。どのような工夫をすればよいでしょうか。
我々予備校講師は、基本的に「大学に行きたい」という生徒を指導しておりますので、そもそも大学受験する意識がない生徒に対して、基礎を定着させるという難題にあたることがないため、先生方のご苦労は並々ならぬものとご推察申し上げます。ちなみに、私自身は、まだ受験への意識が高くない高二の一学期までは、小テストの合計点で順位をつけたりなどのゲーム性を持ちこむのがよいのかな・・・?と思っております。高二の二学期からは、基礎を基礎として教えても退屈する生徒が出て参りますので、先ほども申し上げました通り、「後でこのように役に立つ」というような意味づけをすることで、基礎の大切さを伝えるように心がけております。
堀内先生が教材を作る際に意識しているポイントは何ですか。
特に試験問題作成の際のアドバイスをお願いします。
私が作る教材には、テキストに入れる教材と模擬試験の、大きく分けて二種類あります。まず、テキストに入れる教材は、(生徒に文法事項を定着させるために)文法単元を扱った翌週か翌々週に、単なる文法問題と思われないよう、様々な形で設問を入れるようにしております。様々な形の設問で出題することで、生徒はその単元の重要性を意識するようです。こちらは、先生方がお作りになられる、定期試験と同じような発想だと思います。模擬試験は、出題の形式が決まっている大学別の模擬試験であれば、その大学の過去の出題を分析して、それの流れに応じたものを作りますが、特に指定がない場合、「広く浅く」出題することを意識しております。古文はできる生徒とできない生徒の差が比較的顕著に出るように思うので、設問のレベルを上から下まで作ることよりも、幅広く知っているか、の方が、生徒の古文という科目の学力を適切に判断できるのではないでしょうか。特に下位学年では、きちんと読解したことよりも、きちんと覚えてきたことの方が重要だと思うので、手を変え品を変えで、色々な出題形式で、基礎を徹底的に確認することが有効だと思っております。


佐藤 幸夫
世界史
【8/8(日)実施】

つながりや考えることを重視した授業を目指しているのですが、生徒の多くは世界史を暗記科目ととらえ、憶え方を質問してきます。自分自身は受験生時代から暗記以外のアプローチで世界史を学んでいたので、上手く答えられません。憶え方を訊いてくる生徒にどのようにアドバイスすべきでしょうか。
私も国公立2次に論述しかなかったので、ストーリーや因果関係やなぜか&どうなったかに力を入れていましたが・・・。正直、教える側になってみて、生徒の気持ちを察するに、結局、〈この定義〉は生徒にとっては詭弁になってしまっています。それは、〈テスト〉の存在、さらには、〈成績評価〉になり、大げさに言えば〈人間の優劣〉になってしまっているからです。
我々世界史講師のように、歴史好きは何となく覚えられてしまいますが、そうでない生徒はクラスにはワンサカいるはずです。ですから、正直、〈暗記〉することを否定したら、生徒は??でしょう。ですから、〈覚え方〉をアドバイスしてあげ、同時に〈何を覚えるのか〉〈どう考えるか〉を徹底させていくということになるのでしょう。点が取れないことで世界史嫌い&世界史意味不明なんて言われてしまったら、世界史講師としては一人芝居になってしまいますからね。とは言っても、世界史の醍醐味は、〈歴史ドラマ〉であることは間違いありません。となると、考えさせる〈授業〉と覚えたものを確認する〈テスト〉の相関関係を生徒に理解させることが重要なのでしょう。
佐藤先生が板書計画を準備する際に工夫されている点を教えてください。
顔をあげっぱなしor下向きっぱなしの授業はNG、講義型はどう板書に集中させ、どうプリントやテキストにつなげていけるかということが重要になるでしょう。
私も25年間は板書一辺倒の講義スタイルでした。しかし、生徒の質やレベル・スピードの低下に対応し、5年前から〈構造板書〉+〈パーフェクトプリント(単語・文章の穴抜き)〉の授業スタイルに変えました。板書には4~5つの構造・流れ図を最初10~15分で書いてしまい、1つの構造・流れを10~15分→プリント解説は5分というスタイルです。この〈構造板書〉は、説明することでプリントの穴がほとんど入れられるように話しています。そのことで、プリントの穴は板書を見ればわかるように作ってあるということです。
少々高度なモノにはなりますが、それを知っている生徒は先生の説明と板書をしっかり聞き・見なければいけなくなるということにつながっています。諸先生方の話術も重要なカギになるでしょう。
共通テストについて。過去問や市販の問題集が少ないので、オリジナル問題を作成する必要があると考えているのですが、余裕がありません。アドバイスをお願いします。また、時間があればオリジナル問題を作成しようと思うのですが、どのようなものを参考にどのような問題を目指せばよいでしょうか。
講義の中でも少しお話しましたが、今単元別で市販されているものは1冊しかありません。しかも、共通テストのモノを少しアレンジしたに過ぎないので、演習量不足は否めませんね。ですから、共通テスト世界史で本当に点を取りたい生徒さんをたくさん抱えていらっしゃる先生はご自身で作問し、1カ月に1~2回は演習時間をとってやらせてあげなければテストの点にはつながりません。
さて、そうなると…資料はどうするのか?私の受験用HPやYouTubeにもございますが、〈資料選び〉ではなく、どんな資料でも諸先生が生徒に知っておいてもらいたいという内容を作問できる力があるかということになります。これは、2021年に行われた共通テストしかり、試行調査の問題しかり・・・から問題の雰囲気を読み取ることですね。
しいて言えば、資料を選ぶ際、分野や時代を広めに出題できるモノを使うのがお勧めなので、同時代の複数の資料、同テーマの他時代の資料、流れのグラフ、比較表などは作問しやすいのではないでしょうか?
共通テスト対策として、地図やグラフ、図表の活用を授業内に取り入れたいと考えています。佐藤先生はどうされていますか。
これ、とても重要なご質問だと思います。今回の共通テストによる出題方法や内容の変更に対応するため、今までやってきた諸先生方の授業にどこまで変化を加えていくのか…ということになります。結論からいうと、学校の授業でさえも講義型と演習型の授業に分ける必要があるということです。もちろん、2021年の共通テストでは、世界史の知識がなくとも取れる問題が20点分もあったことを除けば、必要な知識量は減り、資料・グラフ・表の読み取りに年代や判断力が必要になり、時代背景(全体像)が重視されました。講義はあくまでも知識や時代の全体像を教えるものとし、読み取り問題に対応する力は演習型でないと生徒の身にはつかないでしょう。
ですから、例えば講義8回+演習1回(同範囲)といったように、知識や時代背景を理解したうえで、読み取らせるというパターンにするべきかと思います。基本日本史と違い、資料や表は暗記するものではなく、推理・判断するための材料に過ぎないのが共通テストの世界史の問題になっているということです。
今後、教員が生徒に教える機会は減ってゆくように感じます。そうした中で教員がどのような機会を設けてどのような役割を果たしてゆくべきなのか悩んでいます。
教員も人間です。教えることで、その教員の色が生徒に移ります。すでに家庭によって色の着いている生徒にとっては〈肯定〉〈否定〉という判断を強制されることになってしまい、現在学校教育で謳われる〈個性重視〉〈自己考察〉に反する講義形態となってしまうでしょう。正直、今の子供は黙っていても、教えてくれる(正誤・有害無害はわかりませんが…)マシンがあり、さらにはその子の個々にあった情報だけを選択できる世の中にもなってきました。こうして、欧米並みに、多個性による協調性の欠如、情報を受け取れる環境差による知力や推理力の差が明確になってきています。
教員は〈その流れ〉の助けをするのか?抵抗するのか?
個人的には、今までの〈日本の教育〉が〈日本の信用〉を築いてきたと感じています。良きも悪しきも、私もいろいろな国の人に言われた〈日本人だから…〉という言葉、世界の人々に言ってもらえる日本国民を育てるのが教員の責務であるような気もしますが…。グローバルスタンダードを人間性にも当てはめたら、悲しくなりますね。