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2020夏期「授業法研究ワンデイセミナー」質疑応答集

2020夏期「授業法研究ワンデイセミナー」
受講者から出た質問に担当講師が答える「質疑応答集」を公開!

2020年夏期 授業法研究ワンデイセミナーの中で、受講者の皆様からいただいたご質問に対して、担当講師がお答えします。共通の疑問を持った現場の先生方に広く共有いただければ幸甚です。
※いただいた全てのご質問にはお答えできませんが、どうかご了承ください。

本部校出講日 科目 担当講師
7/25(土) 化学 亀田 和久
倫理政経 蔭山 克秀
小論文 土生 昌彦
7/26(日) 生物 大堀 求
物理 木村 亮太
地理総合 宮路 秀作
8/1(土) 英語(1) 西谷 昇二
文系数学 湯浅 弘一
現代文 藤井 健志
歴史総合(日本史) 井上 烈巳
8/2(日) 英語(2) 出雲 博樹
理系数学 荻野 暢也
古文 元井 太郎
歴史総合(世界史) 佐藤 幸夫

※準備のできたものから、順次掲載を行っております。
現在準備中の講座につきましては、今しばらくお待ちください。

2020夏期 授業法研究ワンデイセミナー「質疑応答集」


亀田 和久
化学
【7/25(土)実施】

有機化学の授業を、「電子雲⇒σ,π結合⇒異性体⇒各化合物の性質⇒元素分析⇒構造決定」の順に進めています。しかし、週に4回の授業では、構造決定の演習時間を確保できません。前半部分を効率化し時間を捻出したいと考えています。亀田先生、アドバイスをお願いします。
バリバリ頑張る熱血先生ぶりが感じられる質問ですね。生徒さんにも熱意が伝わっていることと思います。
ご質問ですが、インターハイを目指すテニス部のレッスン計画と考えられてはどうでしょう。前半の基礎練習をなんとか効率化により短くし、実戦的な練習試合を増やすというスケジュールを組もうとしています。そのスケジュールで成功するのは、生徒の自立性が強く、足りない基礎練を自宅に帰ってからするとか、放課後の空いた時間に基礎練をするとか、練習試合で気づいた弱点を自分で気づき自分で補強するとかが出来る生徒さん、つまり優秀な生徒さんならそのスケジュールで良いと思います!
もし、あまり化学が得意でない生徒が多いようなら、むしろ基礎的な反応の説明などに力を注がれたら良いと思います。
いずれにせよ、生徒に先生の熱意は伝わっていると思います!これからも生徒達のために頑張りましょう!
化学を初めて学習する生徒を指導する際に、注意すべきポイントはどこでしょうか。
私がここ数年、生徒に一番最初に伝えているのは次のようなことです。
「化学は数学や物理とは勉強方法が全く異なります!」
なぜなら、
「理系科目は覚えることは少しで、あとは問題を解いていれば解けるようになる」と思っている人が多いのです。昔は自分で
「物理と数学は覚えることが少なくて、問題を解きながら習得という感じだけど、化学は覚えることがすごっく多いじゃないか!」
と生徒自身が気づいたり、友達や先輩から聞いたりしたものです。しかし、最近は相談したりすることもなく、問題ばかりやって解けないので、さらに嫌いになっていく生徒が多いのです。
だから、最初の授業で
”化学の勉強は歴史の勉強に似ている”
くらいの勢いで勉強法の違いを説明しています。
最初に説明して、かなりの効果が感じられます。ご参考なれば幸いです。
メディカル系を志望する生徒に対し、教科書の発展事項(電子軌道論など)をどの程度まで教えるべきとお考えでしょうか。どこまでを教授し、どこからを生徒自身に考えさせればよいかの線引きで悩んでおります。
みなさん御時間のない中、悩まれている人が多いのが発展事項の内容ですね。ご指摘の電子軌道は正に悩むに値する分野だと思います。
電子軌道だけは基本的なことを伝えるべきだと思います。もし、電子軌道の概念を教えなければ生徒は次のような理解になります。
電子はL殻やM殻の軌道みたいな場所に沢山ある⇒だけど結合を作るときはその中の何個かを使う⇒結合は電子殻とは違うのか?⇒結合ってよく分からない⇒電子式は何故2つが塊みたいになっているのか意味不明⇒有機化学や錯イオンなどで書く構造式の価標の意味が分からない⇒付加反応って苦手⇒有機はよく分からないから暗記⇒錯イオンや電子式なんかも全部嫌い
このように軌道の理解の段階からすべてを見失っています。よって、L殻は実は1つの軌道に8つ入っているようなモデルで表記されているけど、それはイメージ図であって、”本当は4つの軌道(オービタル)から出来ている”ということを伝えるのは重要だと思います。それから
電子式はオービタルを表記している⇒オービタルを線(価標)表す⇒すべての価標は電子が2つのオービタル
という具合に理系科目に熱心なメディカル系の生徒の頭も段々整理されていくと思います。
文系志望の生徒へどうやって興味を持たせるか、で悩んでおります。何かアドバイスをいただけますか。
文系とはいえ色々な生徒がいるので、お困りになるので当然ですね。お気持ち察します。もし、文系科目がまあまあ出来る生徒なら有機化学の命名がお勧めです。名は体を表すと言いますが、有機化学は正にそうです。命名ができるということは、一番大切な”分類”が出来るということで、分類が出来れば自然に反応も整理されて頭の引き出しにしまわれ易くなります。それに、歴史の暗記と異なり、古代ギリシャ語とAlkaneの命名さえ覚えれば、多くの命名が出来るようになる非常に魅力的な学問なので、多くの文系生徒は有機化学の虜になる人が多いです。是非、頑張ってみてください!
丁寧に授業をすればするほど、化学嫌いを増やしているような気がします。授業レベルを下げずに解決できる方法やヒントなどがあればお伺いしたいです。
一所懸命に御教授されている意気込みを感じる質問ですね。行き詰まったときは有名なシリーズの参考書というよりは、予備校の先生が書いている参考書などを読んでみるのも一つの手段だと思います。人間の出すアウトプットにはすべて人間性が出ます。正に本はそれがズバリ当てはまります。類は友を呼ぶで、真剣に工夫して書かれている本は、真剣に伝えようとしている先生には共感を生みます。そのような参考書は生徒の参考になるというだけでなく、先生の参考にもなるのです。私も多くの本を執筆していますが、自分の作品なので、毎回、今できる全力で執筆しております。私の場合、マンガやイラストを使ったものが多いのですが、ふざけているのではなく、文章を読むのが不得手な今の生徒には必要不可欠と感じているからです。
上手く伝えようという情熱があれば、必ず自分のスキルも生徒の学力も上がるので頑張ってください!


蔭山 克秀
倫理政経
【7/25(土)実施】

大学入学共通テストの実施が迫っています。蔭山先生は、授業内容の組み立てを昨年から何か変化させましたか。
基本的に変えていません。なぜなら倫理政経という科目そのものや、教える範囲が変わるわけではないからです。ただしテスト形式が変わる(思考力・判断力系の問題、資料やデータの読み取り問題、組み合わせ選択系問題の増加など)はずなので、「復習する際の勉強方法」は指示しています。具体的には政経・倫理とも、必ず習った範囲の「資料集に目を通す(政経ならデータ、倫理なら原典資料)」「センター過去問を解いてみる(特に資料問題・内容一致問題・組み合わせ選択)」です。どちらも時間のかかる作業ですが、慣れるためには必要です。私が試行調査(プレテスト)の問題を解いた実感としては、もしこの形式で出題されれば、慣れてないと絶対時間が足りなくなります。だからもし可能ならば、生徒への課題として「試行調査の過去問を解かせる」「この資料から気づいたことを5点以上書いてこさせる」などを指示するのも、効果的だと思います。
授業時間が限られていることに悩んでおり、どの内容まで扱うかの選択基準を決めたいと考えています。アドバイスをお願いします。
政経・倫理とも「(a)教師の説明がないと理解できないテーマ」と「(b)覚えるだけでいいテーマ」があります。授業時間が足りないなら、これらを2種類のプリントにするのがいいと思います。私も実際、倫理政経では2種類のプリントを使っていて、1つは「授業中に使うもの」(こちらは(a)用。「骨組み+最小限の知識」だけでできたプリントを配布し、そこにどんどん授業中に書き込ませる)、そしてもう1つは「自分で見ておいてもらうもの」(こちらは(b)用。1人で見てもわかる丁寧なものと、人名とキーワードの箇条書き程度のもの)にしています。その上で、(b)用プリントは中間・期末のテスト範囲にするなどして独学で勉強させれば、十分対応できると思います。
生徒の興味・関心を高めるため、時事問題を扱っています。蔭山先生は時事問題をどのように、どのくらい扱っていますか?また、他に生徒の興味をひく方法はないでしょうか。
「生徒の興味をひくための時事問題」という使い方は、毎回やっています。私の場合は授業前に必ず「コロナ対策、民主党時代ならどうやってたんだろうねー」とか「トランプ大統領、めちゃくちゃ中国を叩くねー。こりゃ完全に大統領選を意識して、支持層拡大を狙ってるな」などの「旬な雑談」を入れます。政治や経済に感じるもどかしさは、大人も生徒も一緒ですから、そこを刺激すれば、生徒たちも一緒に考えるモードで乗ってきてくれます。私は政経や倫理の雑談は、雑談ではなく「授業の一部」だと考えているので、準備段階で練ってきた雑談を、「その場で思いついたフリ」をして、計画的に授業に挟んでいます。あと、受験を意識した時事問題の扱い方としては、私大系の生徒たちには冬期講習の時事の講座(90分×4)を受講させ、共通テスト系の生徒たちには、箇条書きに近い簡素な時事プリントを冬に配布しています。
初めて政経を担当しているのですが、どこまで教えるべきか分からず困っています。スケジュールも含めてアドバイスをお願いします。
迷った時は「共通テスト用」でレベル設定するのがいいと思います。つまり「知識<内容理解」型の授業にしてしまうのです。なぜならそこで培った思考力・内容理解は、受験政経すべての土台になり、土台さえできれば、知識は独学でも積めるからです。だから授業では、複雑な知識部分は省くかわりに、「例えば」が口癖になるくらい具体例を増やし、「こういう時代だったからこそ、こんな法律ができたわけだ」と因果関係で理解させ、「要するに~ということだ」というかみ砕いたまとめで締め、単語の意味もスルーせず、すべて伝えていきましょう。その上で、上位の私大を受ける生徒がいたら個別に相談に乗り、「授業では流れを教えてあるから、あとはこの本で細かい知識を入れておけばいいよ」などとアドバイスしてあげればいいと思います。
生徒たちとの問答を発展させられるような問いかけについてアドバイスをいただけますか。
「こういう問いかけをすれば、生徒たちがどんどん乗ってきてくれる」みたいな問いかけの必勝法は、残念ながら私にもわかりません。ただ経験上、「問いかけた後の‶持ち上げ方″」というのはあると思います。例えば私は帰国生クラスも教えていますが、以前と違って最近は、帰国生クラスでもなかなか積極的に手が上がらず、私から強制的に当てることが多いです。でもそんな時、例えば「それめちゃくちゃ面白いね!」とか「なるほど、そんな視点があったか。全然気づかなかったわ。やっぱ君らと話すと、僕も学べる点が増えて楽しいわ」などとコメントすると、徐々に手が上がり始めます。大事なことは、人前で発言する勇気を尊重し、絶対否定せず、オーバーなくらい積極的に肯定することだと思います。今年の帰国生クラスはそのやり方で、今や「高度成長期の‶三種の神器″って何だと思う?」と聞けば、みんな小学生みたいにハイハイ手を挙げる所まで温まりました。


土生 昌彦
小論文
【7/25(土)実施】

土生先生は、面接練習もされていますか?ご経験があれば、アドバイスをお願いいたします。
日常的に面接練習を行っているわけではありませんが、生徒の希望に応じて練習を行った経験はあります。そこで生徒にもっとも強調するのは「まず面接官の話に真摯に耳を傾ける姿勢をもつこと」、いわば「『聴く』ことの大切さ」です。面接というと想定問答集のようなものをあらかじめ準備して、自分の言いたいことを一方的に述べるというイメージをもっている生徒が多いですが、真のコミュニケーションはまず「聴く」ことから始まるのではないでしょうか。最初にじっくりと相手の話に耳を傾ける、そしてそれを踏まえて自分の意見を述べる。このことを心がけるように指導しています。一方的に覚えていることを述べるのではなく、まず相手の話をきちんと受けとめられることを示す。面接にかかわらず、これがコミュニケーションを行う上でもっとも大切なことではないかと考えています。
かつて、「小論文では起承転結が重要」といわれていました。研修では、小論文の構造については触れていませんでしたが、土生先生は構造について、どうお考えですか。
小論文を書く際にメモなどを用いて構成プランを整理することは日頃から指導しています。ただし、固定的な文章の型を教えることはなるべく控えるようにしています。「序論→本論→結論」というようなオーソドックスな型を教えることは問題ありませんが、より具体的な文章の構成プランは生徒が自分自身で考えるべきだと思っているからです。「起承転結」を小論文の型として教えることはやったことがありません。これは本来、漢詩の構成から来ている言葉であり、エッセイや四コマ漫画の構成にはあてはまると思いますが、小論文にそのままあてはまるものではないと思います。小論文では論理的な整合性が何よりも重視されるので、初学者が起承転結を意識すると、「転」の部分で、文字通り転んでしまう危険性があるのではないでしょうか。基本的には「序論」の型をいくつか示し、本論になるべく無駄なく入る。初学者には、まずその点を伝えるようにしています。
生徒が、効果的な具体例を書けるように指導したいと考えています。何かポイントはありますか。
効果的な具体例の使用は、とくに初学者にとって大事なテーマだと思います。その際には「作文と小論文」の違いを実感としてわかってもらうことが大切だと感じています。作文の場合、具体例を書くこと自体が目的であるのに対して、小論文では具体例はあくまでも自分の主張や意見を述べるための「手段」です。したがって、小論文の具体例はなるべく簡潔、的確にまとめること(全体の4分の1程度で十分だと思いますし、それより短くても問題ありません)、そしてその具体例の中に「自分以外の人間にもあてはまる一般的な問題」を発見し、その問題を解く形で文章を構成すること、その点を中心に指導しています。書き方のポイントしては、1)なるべく簡潔・的確に、2)それを通して社会的・文化的な背景を考える手がかりになりうる例を示す、そして3)実際に経験したものでなければわからない情報を入れる。この3点を中心に指導しています。
まとめや結論部分の指導で悩んでいます。多くの小論文では何かしらの答えを提示する必要のあるテーマが与えられていますが、綺麗事や理想論でまとめるしかないのでしょうか。
これは多くの生徒が悩む問題であり、これまで数多くの生徒に問われた質問でもあります。基本的に小論文では社会的なテーマ、問題が多く取り上げられ、それらの多くは解決困難なものです。最終段落で解決策を示すというのは、小論文のまとめ方として有効な方法ではありますが、地球環境問題や少子高齢化問題に短字数で示すことのできる有効な解決策がいつも提示できるとは、私には思えません。この問題に対する生徒へのアドバイスとしては、1)自分の主張に責任を持たせるために、なるべくその主張を具体化する方向で考える姿勢を持つこと、2)最終的な解決策ではなく、まず身近なところから始めることのできる「はじめの一歩」を示す姿勢をもつこと、この2点です。1は、空疎な観念論、理想論に終わらないために必要な姿勢ですし、2は「とりあえずここから始めよう」というレベルの提案ならば生徒にも十分書くことができると考えているからです。
小論文を添削する時にズレたことを書いているのではないかと不安です。小論文添削における、観点やポイントは何でしょうか?
一言でお答えするのはなかなか難しい問題ですが、添削の基本的な姿勢は「生徒の可能性に着目し、それを伸ばす」ことではないかと考えています。まずその生徒が「何を書こうとしたのか」を慎重に読みとる。次に、その生徒が実際に「どのように書いているか」を見る。そして両者の間に存在するミゾを埋めてあげるのが添削者の仕事ではないかと考えています。多くの生徒は、実際に書こうとしたことが現実的には書けていません。自分の主張を他者を想定してわかりやすく書くためには、どのように構成し、どのように表現すればいいのか。それをなるべく具体的に示すのが添削指導の基本だと考えています。その際には「なるべく良いところを探し、それを伸ばす方向でアドバイスすること」、「問題点は一回の添削につき、なるべく一つに絞り、どう修正したらよいかをなるべく具体的に示す」、この2点を心がけています。


大堀 求
生物
【7/26(日)実施】

「生物は暗記科目」と考える生徒が多いことに悩んでいます。何か良いアプローチはないでしょうか。
実際「暗記科目」的な面があるのである程度は仕方がないと思っています。例えばクエン酸回路の場合、「ピルビン酸がアセチルCoAとなり、このアセチルCoAがオキサロ酢酸と反応してクエン酸となり…」と覚えるわけで、実際に入試でもこれらの知識が問われるわけです。ただしこのとき、いきなり「覚えろ」では、生徒も楽しくないでしょう。そこで、クレブスさんが「どうして回路反応になっていると気がついたのか」、「どのような実験結果から回路を解明していったのか」という物語にして説明するようにしています。さらには生徒と一緒に考えるような講義を心がけています(もっとも、時間がないときはできませんが…)。また、このような講義方法は、今後の思考力が問われる入試問題の対策の一助にもなると思われます。
生物学は日々進歩しています。最新の知見については、どこまで踏み込んで生徒に指導すべきでしょうか。大堀先生はどのようにお考えですか。
「最新の知見」は、それがどのようなものであっても入試で出題される可能性があると思っています。ということは、そうしたものを全部教えるのは無理ですから、自分で「面白い」と思ったものを中心に教えればよいのではないでしょうか。先生が楽しそうにやっていれば、生徒も興味を持ってくれると思います。もちろん踏み込むのは、生徒が理解できるレベルまでとなるでしょう。ただ、通常の授業では教科書の内容を説明するので手一杯ですので、夏期・冬期講習会に盛り込んだり、または模試の問題に盛り込んだりしています。
センター試験対策をベースに、共通テストに向けた指導を進めようと思います。センター試験対策から変えた方が良いことはあるでしょうか。
来年1月に実施される共通テストが試行調査通りだとすれば、知識問題も出題されますし、知識を駆使して考える問題も出題されることになります。また、共通テストでは思考問題の比率が大幅に高まります。ですから、これまでのセンター試験対策の「考える問題」の対策の部分の時間を増やさなくてはならないでしょう。そして、考える問題も、センター試験の過去問をそのまま使うのではなく、改良する必要が生じてくるものと思われます。例えば、「この実験結果からどのようなことが考えられるか」という問題なら、逆に「この結論を得るにはどのような実験が必要か」という問題にする…という具合です。さらには、過去問から教科書・資料集などに載っていないグラフを探し出し、そうしたグラフから数値を拾って表にして、逆に生徒にはその表からグラフを作らせる…みたいなことをすると有効かもしれません。東大・京大・阪大あたりの問題を題材にして共通テストの試行調査風な問題を作るのも有効でしょう。
医学部や理学部など、学部ごとの出題傾向に基づいた対策すべきテーマというものはあるのでしょうか。
国立大学の場合、医学部・理学部・農学部で問題が共通していることがほとんどです。従って、学部ごとの出題傾向というものはないわけですですから、この場合は共通の教え方でいいと思われます。もっとも医学部の方が他学部より高得点を目指さすための授業にしなくてはなりませんが。では、公立・私立の医科大学の場合はどうかといいますと、各大学それぞれで違っています。「医学部だからこその問題」を出題する大学もあれば、特にそのようなこだわりがない大学もあります(バイオームなどの直接医学には関係しない分野からの出題は少なくなる傾向はあります)。また出題方式も大学それぞれです。例えば、東京医科歯科大学のような論述を中心とした問題を出題する大学もあれば、私立の中には知識問題ばかりを出題するところもあります。従って、各大学用の授業が必要になってくるでしょう。
生態系に関する内容は、いつも苦戦しながら教えています。何かアドバイスをいただけますか。
まずはこちらがこの分野を「楽しい」と思わなければいけないのではないでしょうか。この分野の入試問題をできる限り多く解く。そして、なるべく旅行に出かける。例えば南西諸島。マングローブ(ヤエヤマヒルギ・メヒルギ・オヒルギなどなど)や木生シダ(ヘゴ・ビロウ・ソテツなどなど)が生えています。そのとき「おっ、これは『バイオーム』の単元で使えるではないか」とか、「あっ、入試問題に出ていた題材だ」となるわけです。そして、写真をたくさん撮ります。すると「はやく授業でやりたいなあ、これらの写真を見せたいなあ」と思うわけです。それは身近なところでも同じだと思います。この前も家の近くの草むらでアブラムシの大群とそれを狙うナナホシテントウの写真を撮りました。もう講義で使いたくて仕方ありません。ただし、旅行に行くのはそんなに簡単ではありません。そこで、そうした場所の本を読むとかネットで調べてみる、というのもアリだと思います。とにかくこちらが楽しそうに説明していれば、生徒も楽しいと思いますし、記憶に残りやすいと思います。


木村 亮太
物理
【7/26(日)実施】

物理を初めて学習する生徒を指導する際に、注意すべきポイントはどこでしょうか。
初学者の指導で気をつけることは、「これから学ぶこと」「これを学ぶことで何ができるようになるのかということ」を学習に入る前段階(導入時)に予めイメージさせることだと思います。ただ単純に数式だけを並べられても面白くないし、学習意欲も湧きません。例えば、物理を初めて学ぶ生徒には、「物理とはどういう学問であるのか」、力学を始める時には、「力学を学ぶことで何ができるようになるのか」、仕事とエネルギーの章に入るときには、「仕事とは何なのか」「エネルギーとは何なのか」「これを学ぶことでどういう利点があるのか」等、その都度これからの学習を予め予告しながら進めることが大切ではないかと思います。ただ、その説明があまりに抽象的になりすぎると逆効果になるので、具体例や例え話、身近な例などを取り入れながらイメージを持たせることで効果が出ると思います。
物理でアクティブラーニングをしたいと考えています。実験以外で何か良い題材があれば、教えてください。
実際に現象を視覚的に見せることはとても大きな効果があると思います。教科書や資料集はカラフルでとても見やすく出来ていると思います。ただ、紙面はやはり静止画になってしまうので、動きのあるものを見せたいときは、動きをPCなどで作って見せたりをしています。一通りの動画を見せるには資料集付属のDVDや、「理科ねっとわーく」というデジタル教材サイトもお勧めです。実験もそうですが、アクティブラーニングは適切に導入できれば効果が高いものだと思いますが、やり方が悪かったりタイミングを間違えるとせっかくのものも無駄になってしまいます。生徒の現状を理解し、その都度、適切なものを導入できるようにいくつか準備ができていると使いやすいと思います。
これまで、難関大志望生の指導が中心でしたが、最近は中堅レベルの生徒達も担当することになり、ギャップに戸惑っています。何かアドバイスをお願いいたします。
難関大志望生と中堅レベルの生徒の違いは、基礎力であると思います。難関大クラスは導入や基本の説明は手短にし、演習の時間を多く取ります。中堅レベル以下は、とにかく基礎が大切です。基礎が徹底していれば中堅大学の問題は解くことができます。中堅レベル以下のクラスを指導する際は、導入や基本原理の説明に時間を使い、残りの時間で、できるだけ演習問題を多く解かせることです。演習問題は単問でできるような典型的な基本問題を用いると効果的かと思います。
授業時間が少なく困っています。工夫できる点があればアドバイスをお願いいたします。
1つの授業に教えることを詰め込みすぎると、教師も生徒もとても大変です。1つの授業で教えられることは基本1つしかないです。その1つを教えることに全力を尽くします。教えたいことはたくさんあります。それを我慢することも大切です。全てのことを事細かに説明するこはできないし、生徒もそれは望んでいません。本当に大切なことだけを時間を割いて説明することの方が授業を受けている生徒からしても、授業の理解ができると思います。「教えたい分量を授業時間で割る」のではなく「決まっている授業時間数で教えることを選択する」ようにすることで、本当に大切なものが決まってくると思います。
理解度向上を目指し、授業で扱った問題の小テストを実施しています。木村先生が予備校で指導する際はどのようにされていますか?工夫などがありましたら、教えてください。
私が授業で行っていることは、「その都度生徒に問いかける」ことです。少人数のクラスであれば指名して答えさせたり、大人数のクラスで指名できないときは問いかけ、考えさせます。例えば、私は力を書き込むときは、まず重力を先に書け。と教えます。そして力を書くときは書く前に生徒に問いかけます。「どんな力が働いていますか?まず最初に書く力は?」また、力学的エネルギー保存則を用いる時などは、「何の式を立てる?」「なぜ、この問題で力学的エネルギー保存を立式するのか?」「力学的エネルギー保存則の成立条件は?」など。電磁気の授業でもエネルギー保存則が出てきたときは、(生徒の状況に応じてですが)力学の分野まで戻って問いかけ、復習します。定着させる一番は、生徒自身で考える機会を複数回与えることだと思います。


宮路 秀作
地理
【7/26(日)実施】

自然地理の指導について悩んでいます。地形や気候は、現行のカリキュラムでは地理の第一歩となる重要単元ですが、自然科学的な要素も含み、文系の生徒には敬遠されがちです。色々と試行錯誤していますが、うまくいきません。宮路先生、アドバイスをお願いします。
「地理は地球上の理」である以上、自然現象の上に人間が生活をしているということを理解させることこそ、地理教育の醍醐味であると思います。そのため、「自然地理を教えて、次人文地理!」とタテ割に教えるのではなく、人文地理とのつながりを適宜示しながら、自然地理を教えると良いと思います。例えば、沖積平野について教えるだけでなく、そこから「なぜかつての為政者たちは、洪積台地の末端に城郭を築いたのか!?」というところまで踏み込んであげると良いと思います。
地理を指導する際には、様々な周辺知識が必要になりますが、宮路先生はどのように情報を収集していますか。
元も子もない話で申し訳ないのですが、私は自ら情報収集をしているという感覚がありません。日々、見聞きすることがすべて情報収集となっています。「そういえば、この話、以前どこかのニュースで読んだな」という気づきを大切にしていて、一つのテーマを掘り下げていくようにしています。結果的にこれが模試を作成するさいに役に立っています。とはいえ、自ら情報収集をするとなると、まずはテーマを決めて、それについて研究されている方の論文を読むようにしています。やはり専門書を読むということは大変重要なのではないでしょうか。そこをかみ砕いて生徒に伝えるのが、本来の我々の仕事だと思っています。
入試の論述対策について。指導の際に押さえるべきポイントは何でしょうか?どのくらいの頻度で指導すれば良いでしょうか?
論述の解答は、「相手に一発で意味が伝わる文章を書くこと」が重要です。「文章の骨子」をしっかりと捉えることを念頭に指導をしています。頻度に関しては、生徒の知的背景、文章力などによると思いますので一概には言えませんが、継続することは大事です。また限られた字数に収めるためには、「環太平洋造山帯に属する」を「環太平洋造山帯下」とするなど、決まったフレーズを適宜使いこなせる必要もあります。こうしたことすべてが論述指導だと思います。
「地理が分かる」「地理ができる」を実感させられるような授業のために、どのようにしていけばよいかについてヒントをいただけますか。
「地理がわかる」というのは、例えば、「アイスランドの最大輸出品目がアルミニウムである理由」について、生徒自らが解説できるかどうかではないでしょうか。つまり「景観」を捉えることができれば、「地理がわかる」に近づくのだと思います。「これが大事」、「あれはそんなに大事ではない」といった、勝手な取捨選択を一旦捨てて、伝えたい情報を元にいかにして景観を作り出して生徒に説明できるか、これを意識しています。
生徒が興味・関心を持てるような導入について教えていただきたいです。
日常生活において、生徒たちが面白いと思えるもの、先生自身が面白いと思えるもの、これらを導入として使い、それが教科書の内容といかにつながっているのかを示すことではないでしょうか。個人的には、「落語のマクラ」にヒントを見つけています。なかなか勉強になります。


西谷 昇二
英語(1)
【8/1(土)実施】

クラス内で学力の差が大きく、どのレベルに合わせて授業づくりをするかで悩んでいます。西谷先生であればどうされますか。
まず、クラス全体で共有できる共通の目標を設定します。具体的であればあるほどいいと思います。例えば偏差値を現状から3か月で5アップするとか、1学期間で読む英文の単語を全て覚える(学期末にはテストをする)とか、英文中の構文や論理を全て説明できるとか(これもチェックテストをする)……。できるだけみんなが到達可能な目標がいいと思います。あとは、そのために必要な授業を提供することですが、還相的な方法論で誰でも頑張れば、その目標に到達できる可能性を生徒に現実的に実感させてあげることが肝要です。
現在、過去に品詞や文型をきちんと習わずに進級してきた生徒を担当しています。こうした生徒たちを指導する際にどのような工夫ができるでしょうか。アドバイスをお願いいたします。
短いが構造的にやや難解な英文を訳出させてみると良いと思います。①自力で出来るなら、あまり品詞や文型にこだわらず教えていいと思います。もちろん難解な文はその説明を入れて明確に解説するべきでしょう。②もし自力で訳出できない生徒が多いなら、入試英語合格のカギはまさにそこにあることを納得してもらって、文型や品詞について一から構築していくと良いと思います。「わかる」ことへの感動を覚える生徒さんも出てくると思います。
教員なのですが、恥ずかしながら自身の英語力に不安があります。少しずつでも向上させていきたいと考えておりますので、アドバイスをお願いいたします。
最初は誰でもそうですし、たとえ30年やっても自分の学力に自信は持てないのではないでしょうか。入試問題も、言葉そのものも絶えず変化するわけですし。ただ、そうした不安を払拭するための努力が必要です。人一倍の予習をし、自分の現状に妥協せず、たえず前向きであることが大切です。そうした姿勢を教師が持てば、それは必ず生徒に伝わります。それは最も優れた教育の一つだと思います。
長文読解の授業はどうしても一方通行になってしまいます。この対策についてお伺いしたいです。
一方通行にも二つあると思います。一つは、完全な一方通行で、自分の教えたいことと生徒のニーズが完全に乖離している場合です。これは教師が気づかなければならない。放置して生徒に授業参加を強制すると、教室は監獄になります。もう一つは教師の教えたいことと生徒のニーズが一致している場合です。形式的にはインタラクティブな授業ではなくても、教室には一体感が生まれると思います。問題はどのように生徒のニーズをそのクラスにとってより生産的な形で一体化し、かつ視覚化していくか、ということではないかと思います。
生徒に指導したことがなかなか定着しません。何かヒントがあれば教えていただけますか。
読解であれば、できるだけ還相的な形で生徒に内容を理解させ、それを繰り返し音読する形で定着させ、テストなどでアウトプットさせるというオーソドックスなことになると思います。ただ、音読はなかなか生徒が実践してくれませんので、授業で繰り返しその必要性を伝えたり、場合によっては授業で教師と生徒がいっしょに音読するのもいいと思います。発音の指導も必要です。リスニングの良い対策にもなります。英作であれば、実際に書いて理解した英文を暗記するといいと思います。これも生徒の実践が覚束無いので、毎回の授業でそこまでの暗記文を板書するなどして、できるだけ生徒参加型の授業にすれば良いと思います。


湯浅 弘一
文系数学
【8/1(土)実施】

湯浅先生が大学入試問題を授業で扱う際に、意識されることは何でしょうか。
出題者の(1)出題の目的(2)どんな能力を大学側が要求しているのか?(3)生徒がどこでつまずくか?の3点を重点に置いて授業させていただいています。決して早い解答方法を目指さず、生徒が自力で気付けて説明のできるように解説するようにしております。さらに、数学的によく知られている事実から出題されているときは、可能な限りその事実に触れるように気をつけています。担当のクラスによっては、計算過程にも触れ、計算の仕方も板書で見せるようにしています。
文系の中でも受験でも受験で数学を一切使用しない生徒たちを担当しています。指導の際には、どのような点に注意するべきでしょうか。
大学受験で数学を必要としない生徒に高校数学を学び知ることで、物の考え方が便利なことがあることを伝える必要があります。(十分性はここでは聞かないでください笑)例えば、ローンや貯金などの計算などは、生徒の食いつきが良くなります。データの分析でも実際にデータを収集するところから行うと分散の話題が広がることもあります。問題を解くだけが数学の時間では無いと思うので・・・言うは易し行うは難しですが・・・
集団授業で生徒ごとの状況を上手く把握できないことが悩みです。湯浅先生は、どのように生徒の状況を確認していますか。
予備校の場合、私の担当クラスでは予習をいつも授業前に報告してもらっています。高校現場ですとこれは難しいと思われます。授業中の把握としては、手の動きと頭を挙げる回数に注意しています。黒板やホワイトボードの板書をノートに写している様子を見ていると、授業の理解度がわかります。理解度が良い場合は、ノートをとる手の動きが早いです。しかし、理解度が悪い場合は、ノートをとる手の動きが鈍く、さらに頭を何度も上げてしまう(写している字が正しいか不安で)からです。こちらの言っていることが伝わっているかに常に気を張っています。
文理混合クラスと文系クラス、どちらにも文系の生徒がいるのですが、湯浅先生でしたら、それぞれのクラスの指導時にどのような点に注意しますか
文系・理系の混在は授業がしにくいですね。しかしながら、私は数学Ⅰ・A・Ⅱ・Bの範囲であれば、文系・理系が共通であることを最初から生徒には伝え、理系は範囲が広いだけであることを言うようにしています。昨今の入試では文系数学の方が理系数学よりも難しい出題になっているからです。大学側もいろいろな理由から結果的に文系数学の出題が難しくなっていると思われますが・・・数学Ⅲを用いて解ける問題に限り、理系用の解答があることをしれっと伝えます。基本的には文系の方というより、数学Ⅰ・A・Ⅱ・Bを必要とする方用に合わせて話しています。気をつけているのは、”この問題はこのように解くと良い”は言わないようにしております。使う数学の知識をいつも確認するように意識しております。
生徒からグループ学習をしたいとリクエストを受けております。何か良いものはありますでしょうか?
グループ学習がどういう種類の授業かにもよります。例えば、長期戦のアクティブラーニングであるならば、課題の目標着地点を明確にすることですから、データの分析には効果的です。それこそ、よく題材になるレシートの収集から高校生の買い物時間と買い物金額の相関を見ることなど・・・グループ学習が短期型の授業中だけであるなら、クラスで扱うには少し難し目の教科書の章末問題程度を予習なしに2人で解き、その後この2人組を2組にしてさらに解答の検討をする・・・などが考えれます。長期型(アクティブラーニング)の場合、最後のプレゼンのシーンはかなり感動します。


藤井 健志
現代文
【8/1(土)実施】

記述問題の採点について悩んでいます。基本的には「このポイントを踏まえていれば加点」と、内容の有無で判断しているのですが、表現の巧拙については基準を決められずにいます。アドバイスをお願いします。
予備校の一般的な模擬試験の場合、ポイント毎に加点する、所謂「要素点」方式が主流であり、表現面においては不備があれば減点するという形式で採点されることが多く、その場合、そもそも作問自体もそれにふさわしいかたちになっていると思われます。学校での指導の場合、そして大学側が合否を決める際の基準は必ずしもそうである必要はないと思いますので、表現への意識を向かわせる指導の一環として、内容面とは別に表現面の配点を設定し、「A~D」の4ランク程度にランク分けしてそのランクに応じた得点を与えるような採点もあってよいのではないかと考えます。
限られた時間で問題演習を行う場合、本文解説と設問解説のどちらを重視すべきでしょうか。
やはり「本文が読めているかどうか」のテストなので本文解説優先が基本かとは思います。たとえば「共通テスト(旧センター試験)型の問題を演習させ、残り数十分で選択肢の解説」といった授業だけを繰り返したりすると、生徒の学力次第では「消去法」的なアプローチしかしなくなり、最終的にスピードも得点も伸び悩むことになりかねません。もちろん時期や受講生の学力レベルによっても工夫が必要で、上位クラスや直前期のクラスでは設問解説がより多くの比重を持つこともあるでしょうが、その際も意味段落の構成を理解できているかどうか等、絶えず本文の理解を確認するよう気をつけたいと考えています。
生徒の「読み/書き/解き」のスピードを向上させるにはどのような指導をすれば良いでしょうか。
生徒が「スピードが遅い」「時間が足りない」と訴えてきた場合、かなりの割合の生徒が「遅いからできない」「時間が足りないからできない」ではなく「できないから遅い」「できないから時間が足りない」ということが多いです。スピードを向上させるトレーニングに入る際には、まず最初に「ゆっくりやればできるのか」を確認することをお勧めします。「ゆっくりやればできる」という生徒の大半は、あとは問題演習で数をこなす(たとえば一日一題で1~2週間)ことで問題が解決しているように思います。
現代文の授業での予習復習のさせ方について、何かヒントをいただけますか。
私が現役生を指導する際には、学校の現代文の授業の予習を徹底するようアドバイスしています。特に日常生活において読書の習慣のない生徒については、そうでもなければ初見の文章を自分の頭を使って読むという経験が皆無になってしまうことが多く、だとすれば模擬試験、そして入試の本番で必要な力が育たないからです。あまり複雑な指示はせずとも、評論文であれば意味段落分け、物語文であれば場面分けを意識しながら読み進め、小見出し付けや要約を通じて部分と全体の関係に意識を向けるといった常識的なもので十分効果は出ると考えます。そのくらいに、生徒の「自力で初見の文章を読む」という経験は不足しているということではないでしょうか。生徒には「復習はあとからいくらでもできるけど、予習は一度授業受けたら二度とできないよ」と言い聞かせています。
抽象的な内容の評論を扱う際、生徒が興味を示しません。こういった場合、どんな工夫をされますか。
生徒たちは抽象的な文章をただただ難しくて訳が分からないと考えていることが多いですが、まずは「抽象⇔具体」「普遍⇔特殊」という概念について説明し、「抽象性が高いということは普遍性が高いということだ」ということを理解させてみてはいかがでしょうか。普遍性が高ければ、その議論のあてはまる具体例も多くあるはず。本文中の具体例に着目するのはもちろん、自分自身で具体例を考えてみるといった主体的な読みがその理解に有効であることを経験させてやってはいかがでしょうか。


井上 烈巳
歴史総合(日本史)
【8/1(土)実施】

論述対策を授業で扱う際のポイントは何でしょうか。
論述授業で重視していることの一つに「安易に模範解答を示さない」ということがあります。論述は与えられた条件(制限)や指定語句や史資料(素材)をもとに立論することが求められる問題形式なので、最初からきれいに出来上がった道筋を見せてしまうことは、生徒の思考を奪ってしまうことになります。あくまでも生徒各自が用意した答案をベースに、取り入れるべき要素や削除すべき無駄な記述を検討し、修正しながら各自なりの解答を仕上げていくことが大切だと考えています。したがって、検討させた最後に私の「解答例」を提示して比較・再検討はさせますが、最初から模範解答を示してそれに近づけるという作業は決してさせません。どんな設問がでてきても、生徒なりの思考で答案を組み立てられるように指導することが大切かと存じます。
生徒が手軽さから1問1答ばかり勉強してしまいます。授業プリントや教科書に目を向けさせたいのですが、どうすれば良いでしょうか?
総じて試験対策にはインプットとアウトプットが必要であることは言を俟たないと思いますが、私は一問一答を限りなくインプットに近いアウトプットだと考えています。確かに反射的に重要語句を思い出すトレーニングにはなりますが、現実の入試問題では(定期テストの問題もそうだと思いますが)、一問一答のように直線的に解答に誘導される問いが連続するわけではありません。生徒は一問一答を「問題演習」と捉える向きがありますので、私は他教科になぞらえて、一問一答集は「単語帳」、用語集が「辞書」、授業プリント(板書)が「文法」、教科書を読むことが「長文読解」だと説明しています。つまり、一つとして欠けて良い要素は無いですし、入試問題形式の演習も無ければ、明らかにアウトプット不足になるというわけです。ちなみに、日本史は学習範囲に沿った入試問題を見つけやすいという利点があるので、私は授業ごとに入試過去問を用意してアウトプットまで含めた復習を指示しています。
文化史の教え方が難しく淡白になりやすいことに悩んでおり、主体的・対話的で深い学びを文化史で取り入れたいと考えています。研修でも例をあげていただきましたが、それ以外で井上先生のおすすめがあれば、教えてください。
文化史の授業は各時代の通史授業の最後になることが多いと思います。文化史は文化現象や文化財を「事例」として時代の特性を再認識させる分野なので、教材の記載事項だけをみると簡潔なように思われますが、現実にはそこに通じる時代の総復習が可能となっています。生徒に対してまとめや復習の時間を用意している場合は、文化史の時間がそれを兼ねるような構成にすることで、生徒との質疑応答で通史理解を確認しながら、授業時数の効率化と文化史の深い学びが同時にできると思います。
後藤新平を題材にした授業例がとても参考になりました。活動が多岐に渡る人物だと様々な切り口から考えを深められると思うのですが、井上先生が他に注目している人物がいれば教えてください。
活躍の分野が広いだけでなく、客観的に考察できる史資料(情報)が豊富なこと、一般的な歴史的評価が定まっていない(もしくは偏っている)こと、生徒があまり着目していない(やや知名度が低い)ことなどが条件として複数揃っていると、特に面白い題材になるかと思います。古代史で言えば、複雑な人間関係と時代の変化のただなかにあった持統天皇、中世史では政治と文化の両面に名を残しつつ敗者となった後鳥羽上皇、近世史では幕府の要人と関わりつつも政治方針の転換の中で弾圧された山鹿素行などは、著名人であっても深めると違った側面が見えてくると思いますし、高田屋嘉兵衛やジョン万次郎といった海外との関係を持った人物や講座でご紹介した伊能忠敬やビゴーの活動も近代化を考える上で色々な気付きを生徒に与えられる素材かと思います。総じて、どんな人物であっても表裏や知られていない側面はあるわけで、直接にそれが日本全体に影響を与えてはいなくても、時代の特質をそこに見ることは可能ではないでしょうか。先生方がお好きな人物に焦点を当てた授業が、生徒にも喜ばれると思います。
生徒に基礎が定着しないことが悩みです。なるべく効率よく基礎を教えて、関連付けや対比を考える授業を行いたいと考えております。井上先生、基礎が定着しない生徒にはどのような取り組みが有効でしょうか。
何をもって「基礎」とするかによって考え方は違うと思いますが、試験に頻出の事項や有名な人物を優先した授業は表層的になってしまうことは言うまでもありません。本来、歴史のアプローチはどんな分野から行っても良いわけで、特に日本史には周囲に生徒の気づきにつながる素材が溢れています。政治に限らず、経済でも生活でも、生徒の興味関心に寄り添ったところを深めることで、興味を引き出し、そこから順次関連付けて「理解」させていくという手順が必要かと思います。点数や過度の効率を考えた授業は生徒を置いてきぼりにして、逆に時間をいたずらに費やしがちです。是非とも、焦らずに、固定概念に縛られない、先生なりの視点から歴史を語ってみてください。


出雲 博樹
英語(2)
【8/2(日)実施】

品詞、文型など基本的な文法が定着しない生徒が増えているように感じます。出雲先生はそうした生徒の変化を感じますか。また、何か対策はされていますか。
私もそのような変化を感じます。Communicative Englishへの潮流は決して悪いものではないのですが、それが行き過ぎてしまい、「大まかな意味さえわかればよい」という気持ちが生徒の中に芽生えているようです。この悪しき流れを絶つために、私は、授業・課題の中で英文構造を意識させることに重点を置いています。具体的には、意味を取らせる前に、SVや従属節の範囲を示させたり、品詞別の役割を答えさせたりしています。このようにして「意味の前に形あり」「形の中に意味が潜む」というモットーを徹底的に意識させています。
出雲先生が「文法の中でもここは生徒が理解しにくく注意が必要」と考えるのはどの部分でしょうか。また、その部分を出雲先生はどのように指導されますか。
講演の中で取りあげた節構造(従属節)の単元以外に、生徒が苦手にしているものの1つが、thatの判別だと感じます。そもそも生徒は、代名詞、指示形容詞の以外のthat (=SVを導くthat)にどれだけの種類があるのかということを知りません。ですからまず、「SOCとなる名詞節を導く接続詞that」、「同格名詞節を導くthat」、「関係代名詞that」、「関係副詞that」、「結果の副詞節を導く(so / such ~ ) that」、「目的の副詞節を導く(so) that」、「内容の副詞節を導くthat」、「原因の副詞節を導くthat」、「判断の副詞節を導くthat」、「強調構文の一部としてのthat」といった代表的なものを例文付きで示して、それぞれの文構造上の違い、前後のコロケーション上の特徴を教えます。
先生のご経験から、これは読んだ方がいい!と思われる、本・文法書・辞典・小説等ありましたら教えてください。
私が若い頃に読んだ本の中で、印象深く、大きな影響を受けた英語関連の書物は次の通りです。どれも古典といって良いもので、皆さんもお読みになったものが多いかと存じます。
①『誤訳の構造―英語プロの受験生的ミス』 中原道喜 (吾妻書房)
②『和文英訳研究―方法と実際』 山田和夫 (研究社)
③『英語の不思議再発見』 佐久間治 (ちくま新書)
④『日本人の英語(正・続)』 マーク・ピーターセン (岩波新書)
⑤『こんな英語ありですか?―謎解き・英語の法則』 鈴木寬次 (平凡社新書)
⑥『教師のためのロイヤル英文法』 綿貫陽他 (旺文社)
難関大に対する長文の指導法について、生徒にはいかにして長い長文を読ませる力をつければよいでしょうか。
まず、文の長さに対する苦手意識を取り除くことが肝要かと思います。私はよく「長い文の方が易しいんだよ。長いってことは、そこから引き出せる具体例や補足情報が多く含まれているってことだからね。」と生徒に語ります。「一番難しいのが、短くて具体例のない抽象的な論説文だよ。なんだかわからないうちに(読み)終わってしまうからね。」とも言います。また、長い文を苦手にしている生徒は、One Paragraph, One Ideaを意識していないので、パラグラフごとに生じる「意味・論理のうねり」を感じられないのです。これを克服するために、パラグラフを読み終わるごとに、生徒に「このパラグラフを15字でまとめると、どうかな?」などと聞いたりします。また、普段読むときもそのように自問自答して読んでくださいと指導します。とにかく、パラグラフ要約を習慣化させることが重要かと思います。
授業の導入、展開の流れを改善したいと考えています。先生は授業準備をどのように行われているのでしょうか。
まず、必ず前回のLessonで何をやったかと言うことを口頭でおさらいしてから、その日の授業を始めるようにしています。そうすることで、生徒は個々の単元を別々に考えるのではなく、一連の知識の流れの中でその単元を意識するようになるからです。ですからその文句を考えておきます。また、「今日は仮定法の応用構文とIf条件の組み込みの話をするね」と言う具合に、最初にその日取りあげる2~3の中心項目を明示します。生徒の頭に知識の受け皿を先に作ってあげるような感じです。そうした展開に板書も合わせます。例えば、前回仮定法の基本構文を学習して、板書の冒頭に「A. 仮定法の基本構文」と書いたならば、この日の授業では続けて「B. 仮定法の応用構文」「C. If条件の組み込み」という風に続けることを意識しています。板書も項目などの流れが途切れないようにしています。


荻野 暢也
理系数学
【8/2(日)実施】

荻野先生は入試問題を教材として使用する際に、どのような基準で問題を選んでいますか。意識されているポイントがあれば、教えてください。
汎用性、テーマ性があること、そして同じような問題であれば出来るだけ近年の東大、京大、早稲田大、慶應大等の難関大のものを選ぶようにしています。その方が解けた時、生徒の自信になると思いますので。あと重要なのはその生徒のレベルにあった問題を選ぶという事でしょうか。予備校のホームページなどで難問と称されるような問題は選ばないようにしています。ただ優秀な生徒には添削用として有益かもしれません。
以前伺った高校では添削をやるようにしてから生徒の学力が伸び、東大に受かるまでになったと聞いております。
荻野先生が数学を教える際に一番大切にしていること、心掛けていることがあれば、教えていただきたいです。
私は受験のために数学を教えているので、彼らの役に立つ事、記憶に残る事、そして間違えない事です。
最後のはいくら予習したつもりでも書き間違え等ありますね。あまりいい事ではないですが、若い頃は役者がセリフを覚えるように予習をしていました。
ただやっぱり一生懸命やる事だと思います。若い頃は数学的におかしな事を大声で叫んでいた事もあったように思います。さすがに今はそれはありませんが当時の方が生徒に言わば奇跡を与えていたように思います。送信力とも言うべき力は元気で一生懸命で本人が面白いと思っていないと発揮されないでしょう。
それゆえ若い先生だからこそ出来る授業というものがあると思います。
元気のない若手と力のないベテランはまずいと思います。後者は自戒を込めて。
休校中に初めて映像授業を作成しましたが、生徒の理解度が対面授業の場合よりも低くなってしまいました。荻野先生が「映像のみの授業」の場合に気をつけていることがあれば教えてください。
代ゼミでは一学期は全部映像授業で夏期講習から対面と映像の形になりました。
職員の方から聞きましたが夏期講習は絶対対面授業じゃなきゃ嫌だという生徒が大半だったそうです。皮肉な話ですがコロナの影響で対面授業の良さが見直されたのだと思います。
映像授業の一番の欠点は強制力のない事だと思います。浪人生でもやはり管理されないと駄目だとの自覚があるのでしょう。強制力のない教育では子供の初期能力(知能、集中力など)で結果が決まってしまうように思えます。まずその映像授業の欠点を授業前に強く伝えることによって生徒達が能動的に取り組めるのではないかと思います。うちの息子の塾では映像授業を見るという言い方をすると注意されるそうです。見るではなく映像で勉強するのだと。
生徒のモチベーションアップについてです。以前は成功した方法が、近年うまくいかなくなってきたように感じます。荻野先生は、生徒の気質の変化を感じることはありますか。また、新しく工夫されていることがあれば、教えてください。
私も同感です。昭和の人間なので努力して困難を克服したり、成り上がって成功するのが素晴らしい人生なのだと教わってきたように思います。しかし今の子供は昔と違って安定志向でより上に行こうという向上心に乏しいと思います。バブルの失敗を見てきた親世代の影響かと思います。
以前生徒に「将来どんな車に乗りたい?」と聞いたら「低燃費」と言われました。私はベンツかフェラーリとかの答えを予想していたのですが。
まさに現代の人生観を物語っていると思います。
それで結局脅すことにしています。(笑)
「今の日本に安定などない。大きな会社に入れば生涯安泰という時代は終わった。今や黒字企業でも将来のAIの導入を見据えてリストラする。代わりの効かない人間になれ。安定は自分で作る物だ。君の将来を守ってくれるのは、金と家族と国。しかし3つ目はもはや当てにはならない。では今君に何が出来るか考えて欲しい。弱者の多数決に従ってはならない。」と。
問題集や教科書の解答を片っ端から覚えることで、受験やテストを乗り切ろうとする生徒がいます。こうした生徒に対して、どのように指導すればよいでしょうか。
よく暗記やパターン学習はダメで、定義を理解して学ぶべきだと言う意見をよく聞きます。しかしその子が理由をわかっているのであればそれでも初期段階としてはありだと思います。私は経験ない問題は解けないと臆面もなくいつも言っております。その問題ズバリでなくともその部分部分の経験があるから解けるのだと。
知識があって初めて考えられるのだと思います。
定期テストでそれの数値変え問題、類題を出題したらいかがでしょうか?
事前にそれを伝えておけば生徒さんの取り組む姿勢もかわってくるのではないでしょうか。それから当然の事ながら数学を受験に使うのであれば、解答を忘れたら解けなくなるようなレベルでは全く役に立たない事を強調するべきだと思います。


元井 太郎
古文
【8/2(日)実施】

口語訳についての質問です。「口語訳せよ」、「語句を補って口語訳せよ」どちらの指示も見たことがあります。この二つの差異を考えると、単純な「口語訳せよ」という指示であれば、逐語訳に徹すべきだという意見も聞きます。研修では口語訳の設問であっても、全体を踏まえてまとめるべきと教えていただきましたが、元井先生はこの二つの違いについてどのようにお考えですか。
解答欄のスペースが割と決め手ではないか、と思われます。「語句を補って」と出題されるのは、受験生の答案が、あまりに、逐語訳すぎて、日本語の答案として整っていないものが多いからではないか、と思われます。ですから、指示があってもなくても、スペースが短ければ逐語的に、長ければ、主語・目的語・指示語などを補う、と大まかに考えておけば良いと思われます。いずれにしましても、日本語としてまとまった答案を心がけたいものです。
授業がどうしても文法を中心に基礎(単語・常識・文学史)を覚えさせる指導になってしまい、それが生徒の古文嫌いにつながっている気がします。元井先生アドバイスをお願いします。
大まかな方針としては、本文速読の復習を通じて基礎の定着を図るとよいのではないかと思います。単語・文法・古典常識・文学史をただ、暗記させるのは、生徒も苦痛であり、学習効果的にも、効果はよろしくないようです。やはり、ざっと一通り単語・文法を仕上げたら(このざっとがどの程度かが難しいのですが)、実戦的に問題演習の中で反復的に習得・定着を図るべきではないか、と思われます。
単語を本文の速読の中で記憶して行くと、読解力と基礎力が効率良く身に付きます。古典常識も同様に 「成人は男女十二・三才」といった暗記的なものは覚えつつ、本文の流れも「よくあるパターンの話」として解説します。
文学史については、どこまで指導すべきか悩まれる先生も多いと聞きます。薄手の問題集を1冊用意していつも触れてゆけば、時間をかけずに必要なポイントをおさえられるでしょう。
共通テストに向けた指導について、アドバイスをお願いします。
古典に関しましては、問題形式が変わるだけで、各設問の本質は、センター試験と変わらないのでは、と思っています。出題形式の変化は、生徒が不安に思うところですが、本文が2題出題され、それぞれに対する、A君、B君、C君など数人の会話についての設問、といった形式上の変更だと思われます。しかし、そこはきちんと基礎を踏まえ、センターレベルの出題意図・選択肢処理で対処できると、生徒を安心させたいところです。あとは問題集・模試で慣れてゆきたいものです。
中高一貫校の教員です。中学段階でどの程度まで、古文を教えるべきでしょうか。
平易な短文・中長文で、古文・漢文の雰囲気に触れつつ、基礎的な単語・助動詞にざっと慣れられれば、高校段階でスムーズに学習が進むのではないかと思われます。古典は、一度目鼻がつくと得点源となりやすいので、早くから手をつけさせられれば、メリットになると思います。
元井先生おすすめの古文参考書を教えてください。
読解は、やはり拙著、KADOKAWA出版『元井太郎の古文読解』がオススメです。単語・常識につきましては、Z会出版の『読み解き古文単語』と『速読古文常識』が、あくまで長文の本文において説明がなされ、実戦的でよろしいのではないか、と思われます。


佐藤 幸夫
歴史総合(世界史)
【8/2(日)実施】

新指導要領が近づくにつれ、現行の世界史の授業においても「探究」の要素を盛り込むことを求められつつあると感じます。自分自身の受験生時代からの蓄積が通用しなくなる感覚にとらわれ不安です。佐藤先生アドバイスをお願いします。
正直、文科省が示した「世界史探究」の指導要領を熟読するに、我々教師側の教え方の方向性に何らかの言及をしているわけではなく、教える内容に大きな変化を感じています。現在の戦後史部分の記述がそうであるように、従来の単元を時代別に統合し、同世紀史的な見方を重視させようとしているように感じます。以前から話題になっている〈アクティブラーニング〉の方法論については、教師の独自性に任せる的な記述があります。本来の姿として、〈知識教え込みに終始する〉→〈生徒自身が歴史について考える場も設ける〉が大前提となっている今回の改革なので、「探究」に関する内容は実際、教科書ができてから考えるとして、生徒参加型の方法は今の時点でも色々考えられるので、そちらを1時限の授業の中に取り込んでいくのかをお考えになった方が良いのではないでしょうか?
ただ、〈試験を受からせる〉という最終目的に立つ場合は、私立の入試問題が現状通りであれば、高校の教育と私立大学の求めるものに矛盾が存在することとなり、現場の混乱は必至でしょう。
初めてのオンライン授業で戸惑っております。対面であれば生徒の様子を見ながら調整できるのですが、収録ではそうもいきません。佐藤先生は、映像授業の収録の際に注意しているポイントはありますか。
巷で言われている通り、今回の教育混乱で、オンライン授業の必要性と質の向上が問われることになりました。元来、高校講師は生徒との信頼関係やスキンシップ的な感覚を持って、有意義な授業を展開できていました。しかし、オンライン授業となるとそれが難しくなり、教授する側の一種のパフォーマンスが要求される職種に変わってしまいます。
よって、オンライン授業の収録においては、従来の授業の利点を忘れ、オンラインのもつ利点を発揮できる授業構成に変えねばいけません。オンラインの利点は、①止めて何度でも見直せる ②動画や写真の素材を入れやすい ③匿名のチャット形式による授業参加 です。以前よりも教師側の準備は大変になりますが、実は生授業よりも面白くすることは可能です。しかし、生徒の態度や理解度が把握できないことはオンライン授業の最大の問題点ですが、これについて、個々の教師が解決できることではなく、高校全体をあげて、その対策に当たらねばいけないでしょう。
佐藤先生は重要事項を説明するとき、どのような点に注意されますか。
なるべく生徒たちの印象に残るように説明したいと考えております。
何かアドバイスをお願いします。
印象に残る・記憶に残る授業…社会科の教師にとっては永遠のテーマですね。重要事項はいわゆる有名事件などが多いため、ほとんどが物語として話すことが可能です。あとで、生徒本人は物語を話せるような物語の展開があるものとして。ただ、その物語は、あくまでも、、16~18歳の高校生の興味に繋がるモノでなければ印象にも記憶にも残らないでしょう。「あ~そんなことあるな~」「こうすると、結局こんな結末になるんだな~」「こういう人間って確かにいるね~」とか…生きている今にタイアップした物語作りが必要なですね。テレビドラマを授業で展開しているイメージです。私も含めて、教師はどうしても自分の目線でモノを語りがちです。本当に彼らの印象・記憶に残すためには、彼らの目線を我々が学ぶところから始めねばいけないのでしょう。高校生の話題やSNSなど…ある程度、目線を下げることが必要なのかと思います。決して、これは生徒への迎合ではなく、これが今の子の現実&限界なのかと思っています。
第2次世界大戦以降を指導すると、地域ごとのピックアップの羅列になってしまい、うまくまとめることができません。何か良い方法はないでしょうか?
どうでしょう。私としては戦後史が一番楽しく、一番生徒に興味を持たせやすい単元ではないかと思っています。戦後史は勿論、1945年のヤルタ会談の米英ソのやりとり~1989年12月のマルタ会談での終結宣言までが主幹となり、それに影響を与えた又は影響を受けた事件を枝のように解説していく授業形態になるかと思います。それに漏れた出来事は、そのあとに各国史で教えていくことになります。
戦後史はいずれの出来事も、今の世界に大きく影響を与えていることが多く、現在の宗教・民族問題、歪んだ支配体制、環境・貧困問題など、〈現在からを過去を追う授業展開〉が生徒の興味を引く方法の1つかと思われます。また、映像や写真がたくさん残っていることや、事件の詳細が分かっていることから、教師側の勉強次第では、物語的に解説できる事件もあると思われます。ただ、面白くしようと話過ぎて、時間が足りなくなる…というのが私自身の反省点ではありますが‥‥。
世界史に限らず、教員・中高生におすすめの本があれば紹介してください。
この本!というのがあるわけではありませんが…
PHP研究所(パナソニックの創設者である松下幸之助によって創設された出版社)からの書籍は役立ちます。とくに〈月刊PHP〉は、その月のテーマによっては教育に携わる我々に大切なことを教えてくれることもあります。その系列ではVoiceや衆知という雑誌をよく読んでいます。ただし、あくまでも、松下幸之助に沿った人生論なので好き嫌いはあると思うので、そのあたりはご理解下さい。
あと、われわれ世界史講師ならではの、世界史著名人の名言集ですね。これは書籍である必要はなく、ネットで沢山読むことは可能でしょう。いずれも、教育に転用できるものが多いのでよく使っています。

世界史の先生には、ぜひ、今の世界を知るということで、〈Newsweek〉の定期購読をお勧めします。何のために世界史を教えねばいけないのか…今起きている世界から世界史を学ぶ必要性を感じることができると思います。