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生徒との信頼関係が何よりも大事 - 湯浅 弘一(数学)

数学講師  湯浅 弘一

― 先生が若手時代に意識していたことや心掛けていたことはどんなことですか?

  • 20代の頃、最も心掛けていたのは、如何に見やすい板書をするかということでした。当時、“数学難民”を救いたいという目標があった私は、数学の苦手な生徒を見つけると、どうして苦手なのか?というところから紐解いて、できるだけ見やすく説明を黒板に細かく沢山書き、生徒が帰宅して復習する時に見やすいノートになるよう心掛けていました。もう一つ心掛けていたのは、90分の授業をどう飽きさせないかです。話し方もただ一辺倒で喋るのではなく、メリハリを利かせて喋ることを注意して、引き寄せる工夫をしていました。例えば落語なんかもある程度、メリハリや抑揚があったりしますよね。これが話し方の参考になりました。その結果か、模試で成績が上がったと報告に来る生徒が増えていったのを覚えています。

― では授業するに当たって、ベテランとなられたまさに今、最も大切にしている意識は何でしょうか?

  • インタビュー風景一瞬にして、その教室にいる生徒の空気を読むことです。例えば、今日の生徒が元気であるか疲れているか、ということに始まり、予習をしてきているか否か、ということまで、生徒の調子を把握します。授業を始めて5分もすれば、ノートの取り方や顔の上げ方から、「その日の調子」が見えてきます。なぜそういうことを大切にしているのかというと、例えば、生徒にとって凄く苦手な部分の授業をしたとします。もしその授業を受けている生徒の調子がよくないのにこの解説を続けたら、その生徒はどんどん引いてしまいます。引いているということはつまりそこから逃げているということです。教師としては逃げれば追いかけます。でも追いかけると生徒は無理に頑張ろうとするので、悪循環になり、数学嫌いを作ってしまうことになっていくんですね。その生徒は、質問に来ることさえなくなります。数学を嫌いになってほしくないので、生徒の空気を読んで、それを踏まえた上で授業をするんです。もっとも、こういうことは、年齢を重ねていくにつれてできるようになってきたんですけどね。経験のおかげ、と言えばよいのでしょうか。

― 自らの授業スキルは、経験を重ねるとともにどう変わってきましたか?

  • 昔は、一つの問題に対して一年中同じ解き方をしていましたが、今は季節が変われば問題の解き方も変えています。例えば冬に近づくと授業内容は受験記述対策に切り替わってきますが、そこでは板書の字が少なくなるような解法を提示してみたり、問題の背景を喋ったり、といったことをしています。これができるようになったのは、自分が知識を得たからというのが大きいですね。これが教員生活を始めて10年おきくらいで起こるんです。だいたい10年スパンで新課程になった気がしますから、タイミングってやつですか?(笑)。でも教師になりたての頃は、まず黒板にうまく板書が収まらないし、図はきれいに書けない。さらには、生徒のノートにある私の板書の意味がよく分からない、と言われたこともありました。でも、そこで指摘されたことを自分なりに考えて、自らに還元していくことで、スキルが上がっていったのではないかと思っています。生徒のおかげということですね。生徒からは今でも教わることの方が多いですよ。生徒は神様です(笑)

― 若い頃一番苦労したこと、今一番苦労していることは何ですか?

  • 若い頃は、生徒の反応に苦労しました。生徒から「この解法の方が良いんじゃないですか?」と言われることが結構ありました。でもそこで怒るのではなく、自分なりに考えて、自らに還元することでレベルアップできたので、そこは苦労して良かった点ではないかと思っています。今ですか?今は歳をとったことに苦労しています(笑)。でもこれは冗談を抜きにして、今の生徒には「ゆっくりと考えて問題を解いてほしい」ということを伝えたいですね。最近の生徒はどうしても、問題をゆっくりと考えてくれない、という傾向があります。とにかく早く答えを知りたがるんです。本来であればゆっくりと丁寧に考えて、問題を解いてほしいのですが、それがなくなってきているということです。なかなか伝わらないので、それを伝えることには苦労しています。これが日々の課題と言ってもいいですね。
    現場の先生とメールをすることがよくあるのですが、先生がある生徒に別解を紹介したら「それが答えに辿り着くのに一番早いのですか」と聞かれたそうです。早さではなくて「こういう考え方もあるんだよ」ということを伝えたいから別解を示しているのに、早く解けないのであれば別解ではない、みたいに言われて現場の先生は苦労されているという話はよく聞きます。僕はその度に「負けないでください!」と返信しています。

― では最後に、現場の先生へのメッセージをお願いします。

  • インタビュー風景笑う門には福来る。まず生徒を安心させましょう。次に知識を与えてあげましょう。それからトレーニングをさせましょう。そして決して手を抜かないで教えること。良い教え方をすれば良い生徒が育つものだと思っています。雑多な言い方になってしまいますが、電子レンジでできたご飯は、どこまでいっても電子レンジによる味のものです。同じように、こうすれば早く解ける、という授業をすれば生徒もそれに応じた学力しか身につけられないのではないでしょうか。笑いが大切なのは、笑いによって生徒を安心させれば、信頼感も出てくるからです。もし生徒に嫌われたら、それは生徒を数学嫌いにさせてしまうことに繋がります。笑いから安心を与え、信頼を築けたら良いと思います。そして実践的なことで言えば、手を抜かずに授業をすることです。「まあこれでいいか」と、妥協することは絶対にせず、一回一回丁寧に授業することが大切です。授業をする際に、どこかでそういう意識を持っていることが、とても大切だと思います。何せ生徒様は私の神様ですから(笑)

聞き手:吉岡 誠悦