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生徒の中に飛び込む!正しいと信じたことを体当たりで。 - 西谷 昇二(英語)

英語講師  西谷 昇二

― 若手教員のうちにしておいた方が良いことはどんなことだと思われますか?

  • 自分の経験を踏まえて言うと、あまり周りを意識しすぎないで生身で生徒の中に飛び込んでいくことが必要じゃないかと思います。実際の学校という組織の中でそれがどれだけできるかというと難しい面もあるかもしれませんが、自分の「良い」と思うものを素直に出し切ることが大切だと思います。もちろん失敗もあると思います。でもそれを恐れないで、どんどんぶつかっていったらいいと思う。夏目漱石の『坊ちゃん』という小説のイメージに近いと思います。坊ちゃんがなかなか自分の価値観を受け入れてもらえない中で、体当たりで教育をしていく姿は、漱石の教育の理想の一つなのかもしれません。正しいと信じたことにはまっすぐに突き進んでいき、失敗しながらも生徒との関係性を見つけていけばいいのではないかと思います。

    インタビュー風景僕も若手時代、代ゼミに入った頃は毎回の授業が失敗の連続でした。昔借りてたマンションに帰って、夜寝るときに悔しくて、毎晩のように部屋のふすまに当たり散らして、ふすまをよく蹴ってました。ふすまがぼろぼろになって…お蔭で引っ越すときは随分、敷金とられたけどね(笑)。最初十年くらいは常に闘いでした。ジョージ・オーウェルというイギリスの作家は「人間にはdecencyが大事だ」と言っています。僕なりに言うと、decencyとは「品性」ということで、「かなり立派」で「見苦しくない」状態です。「道義的なこと」と言ってもいい。つまり、すごく立派ではなくても、その人なりのやり方、考え方で、自分らしく教えればいい。自分の持ち味が出てればいいんです。逆に、外見的にどんなに立派でもそれが、自分を欠いて、まわりの価値観に合わせたものだとつまらない。要は「品行」ではなく「品性」が大切だということです。『坊ちゃん』にはこのあたりがうまく出ていると思う。自分が信じることをやっていくことに本当の教育があると思うので、若手の先生方は、自分の持ち味を出して、失敗してもそれを修正していくことを毎日続けられるといいのではないかと思います。

     また、若手のうちには、いいものを見ることが必要だと思う。ここでいう「いいもの」とは自分がいいと感じるってことで、世間一般にいいと言われるものとは違います。自分の好きなもの、惹かれるもの。例えば好きな音楽があったら、誰の何がいいのか、どんどん深めて追求して行ったらいいと思う。そういう中で自分の持っているものもわかってくる。やはり手がかりは「好き」です。自分が感覚的に好きなものをどんどん追求していったらいいと思う。コンサートでもいいし、寄席でもいい。僕の場合には芝居が役にたった。教師には演劇的な所があると思います。その場でのアドリブもあるし、観客をひきつけなくてはいけないし、好きな役者の持っているオーラは伝染するので、芝居を見ることはとても参考になります。こういうものはきっとのちのちの肥やしになるので、定期的に触れていくことで自身が活性化されると思う。

    授業であれば自分が理想とする先生の授業を参観させてもらったりするといいと思います。参観することで自然に自分が修正される。僕も代ゼミに入った頃は当時の有名な代ゼミの先生の授業を英語だけに限らず見させてもらいました。ものすごく参考になった。決して真似をするわけではないけど、見ている中で自分というものがより分かるし、自分の教え方が洗練されるんですよ。

― 経験を積まれて、ベテランになる中で先生はどんなことを感じ、考えられていたんですか?

  • 自分が「なぜ教えているのか」と感じるようになったのは10年くらいたってからだったと思います。受験時代はある程度リスキーじゃないですか。医者を目指して医学部に入るために何浪もすることは、精神的にぼろぼろになりますよね。こういう子たちは、将来なりたい医者のために大学受験をクリアしなくてはいけない。受験自体が良いとか悪いとかじゃないけど、その後に自分がやりたいことがあって、そのために突破しなければいけない壁があるんだったら、これを超えることで自分が磨かれるということはあると思うんですよね。自分は30歳くらいの時に親友が亡くなって、これが今でも僕の引っかかりなんです。それぞれがそれぞれの夢を追っかけてたんだけど、彼は志半ばで死んでしまった。同時に、残された僕の夢も壊れた。で、いろいろあって代ゼミに入った。どうしたらいいかってどうにもしようがないんだけど、僕と親友との間にある絆は今でも変わらない神聖なもので、そこには強い情熱がはたらく。今、目の前に生徒がいて、そこに自分の親友に対する情熱を重ねている所が無意識にあると思う。自分のやりたいことがあるなら、障害があったとしても、それに負けないタフな人間を作らなくてはいけない、何度倒れてもそこから這い上がっていかなくてはならない。そんなふうに生徒を奮い立たせたいという気持ちになります。こうした自分自身のモチベーションは10年くらい経ってからやっとわかってきたものです。

― 現場の先生方にメッセージはございますか?

  • インタビュー風景やはり大切なのは「自分が若かった時のことを忘れない」ということじゃないですか。「何でこんなことができないの」と生徒に言ったらおしまいなんだよね。自分だって昔できなかったんだから。できなかった昔の自分が、今の自分の中にいて、この昔の自分に対してどう語りかけていくのかっていう視点ですよね。これが絶対的に必要だと思います。自分の若いころの価値観や経験を忘れてはいけないと思います。

    教師は生徒にいろんなことを教えつつも生徒がしたいことを育んであげることが大切だと思います。究極を言えば「何もしない」のが理想なのかもしれません。画家のモローという人物が弟子のマティスにこう言っています。「私の言うことは聞かないでよろしい。あなたがすることは、私が言うことよりもずっと大切だ。私は一介の教師にすぎないのだから。」最終的にはまさにこうした形で生徒を自立させ、才能を開かせていくことが大切です。現実には、昔のできなかった自分がそこにいるから、教えなくてはいけないことはたくさんあるんですけど、根本の考え方はこういうことだと思っています。

聞き手:吉田 敦