HOME > 教育/入試情報 > 教育情報・教育インタビュー > 物理で点数を取れない生徒が認識すべきテストの「からくり」とは? - 稲垣 満(物理)

物理で点数を取れない生徒が認識すべきテストの「からくり」とは? - 稲垣 満(物理)

物理講師  稲垣 満

― 授業中,生徒のモチベーションを高めるためにどんなことをされていますか?

  • 新学期の初めのうちは来年の受験に向けてモチベーションが高まっている時期ですので,これを「高めること」よりも,「下げないこと」を意識して授業を行っています。しかし「やる気がある」ということには逆に危険な面もあります。例えば,授業で学習したことを次の週までに全て復習して自分のものにしようとする生徒は,最初の体力に余裕があるうちはいいのですが,疲れがたまってくる6~7月頃になると,復習が追いついていかなくなりがちです。その時に自分の能力に限界を感じて,その不安から勉強に集中できなくなってしまうことが多いのです。特に真面目な生徒がこのような状態に陥ることが多いのですが,そうならないように,あらかじめ授業内で「通常授業がある時期は,自分が理解できる範囲を深く考えるような学習をするように。自分が苦手な範囲や時間がかかりそうな単元に関しては,すぐに克服しようとしないこと。その代わりに,どこが苦手かしっかりとチェックしておいて,夏や冬などの時間がある時にじっくりと考えて身につけるのだよ。」と今すぐに完璧にすることよりも,計画をたてて学習していくことが大切だと伝えています。

    一方で,中堅層の大学を狙う生徒達は,もともと勉強に対して苦手意識を持っていたり,自分の進学先に対する限界を感じている場合が多いのです。こうした生徒達に対しては,「一年間で到達できるラインには限界があるかもしれないが,その先に自分が何をやりたいのかをしっかり見据えさせて,それにつながるような大学に入ることが今年一年の目標ではないか。」と伝えています。「いい大学に入れないからあきらめる。」と短絡的に考えがちな生徒に対しては,いい大学とは偏差値で決まるものではなく,学生に真摯に対応してくれて,しっかりと教育してくれる学校のことなのだと認識させることが大切なのです。そのために授業中の雑談や,生徒が講師室に相談に来た時などに,過去の先輩たちの成功例や具体的にどこの大学ではこういう研究をおこなっているなどの情報を提供して,自分の目標(例えば,やりたい研究や行きたい就職先など)を定めるよう誘導しています。

― 物理という科目については,どう生徒のモチベーションを維持させていますか?

  • インタビュー風景物理現象や公式をしっかりと理解しているのにテストの点数が伸びないのは物理におけるテストの採点方法に「からくり」があるからなのです。物理の問題を解くとは,①問題文を読んで現象を理解する。②公式を用いて立式する。③計算して答えを導く。の3つの手順が必要です。記述式のテストの場合,それぞれのステップ毎に途中点をもらえるのですが,解答のみを書けばよい空所補充型のテストの場合,物理において一番重要な自然現象を理解し,それを式で表現するという①②ではなく,③で計算ミスをしただけでも不正解となってしまう。つまり,数学の能力も少なからず点数に含まれてしまうのです。しかも,数学の能力で落とした点数にもかかわらず,生徒たちは「自分は物理ができない」と考えてしまいがちなのです。

    模試の結果が悪くて落ち込んでいる生徒などには,解答用紙を持ってこさせて不正解の箇所について本人の考え方を聞き,考え方があっていたら,計算ミスだったから次は得点できるね!ここで計算ミスをしていなければ,得点や偏差値はいくつになっていたねと具体的な数字を見せ,次に期待しているね。と声をかけるだけでも生徒のモチベーションは全然違ってくると思います。しっかりと生徒の能力を評価してモチベーションを保たせたいのであれば,解答のみ書かせるようなテストではなく,途中過程を書かせるようなテストのほうが優れているので,そのような模試を受けさせるなど,方法はいろいろあると思います。

    もちろん授業の進め方でも,一つ一つの段階毎に出来たら褒めることが大切なのだと思います。「問題文が何を言っているか」「単語の意味をしっかり把握しているか,説明できるか」などと問いかけて,これができていればまず褒めます。「何の公式を使うか」を一緒に考え,その選択が正しければまた褒めます。生徒が自らのつまずいている箇所を明確にし,これが少しずつでも改善すれば,学習の効果が目に見えるため,モチベーションにもつながっていくと思います。

― 難しいというイメージを持たれがちな物理ですが,この原因は何であるとお考えですか,またこの対処法にはどんなものがありますか?

  • 物理をはじめて習う生徒は,「そうなるのは当たり前だよ!」という感覚を持つ生徒と「なぜそうなるのかが分からない」という反応をする生徒にわかれます。これは子供の頃から,いかに様々なものを観察し,考察してきたかの違いなのだと思っています。例えば,「マジックテープがくっつく仕組み」などは,身近なものを観察する癖がついている子であれば仕組を理解していて,自分の感覚としてくっつくのが当たり前となっています。物理においてこの当たり前の感覚を養うためには,このような観察→考察の積み重ねが大切なのだと思います。高校では実験の授業がこれらの役割を担うわけですが,この実験自体に興味がない生徒はつまらない,難しすぎると感じてしまうのではないでしょうか。もっと身近で生徒達が興味をもてる現象を見せて,これが物理に関わっていると認識させることで,生徒が物理に興味を持つきっかけになると思います。日常生活の中での物理学を扱った本が出版されていますので,こうした本の内容について,授業中に紹介することも効果的かと思います。 さらにいってしまえば物理と関係ないことを考えさせても良いと思います。例えば「電車のつり革にはなぜ丸いものと三角のものがあるのか」など,普段から周囲を観察し,それを考察したり調べたりする時間をいかにつくるかが大切だと思います。

    次に授業中に扱う問題についてですが,一つの問題に様々なことを含めて複雑にしないことが大切だと思います。公式を身につけることが目的の段階では,アルファベットを使用して式が書ければよいため,小数点が入るような数値の計算をさせることは逆効果だと思います。生徒は計算部分に意識が行ってしまうため,そこで間違えると苦手意識を持ちます。簡単な問題でも生徒の力は十分につきますので,特に苦手意識を持つ生徒に対しては「物理は思ったより簡単だ」と思わせる指導が必要だと思います。ただし成績を伸ばすには,生徒がつらいと感じるぎりぎりラインの問題を与え,頑張らせ続けることも必要です。このあたりは,生徒の状況をよく見て使い分けています。

― 合格する生徒に共通する点はどんなことでしょうか?

  • 正直に申し上げて,受験に合格する生徒という意味であれば,問題演習をこなした生徒,記憶力が良い生徒であるという現状があります。ただ,こうした生徒は大学で研究の道を選んだ場合に花が開かないことも多いと思われます。現象を深く理解するという姿勢を持たずに,受験で点数を取るための解法パターンを覚えるだけになっていることが多いからです。私自身,現象を深く理解させるような授業を行いたいという気持ちがある一方で,受験に合格させなければならないため,ここの葛藤は非常に大きいのが現状です。このため,1年間のうち「深く考えさせる物理」から「受験に合格するための物理」へと,冬期頃を目処に授業スタイルを変えています。

― パターンを覚えるだけの生徒は今後の新しい入試問題に対応できるのでしょうか?

  • パターンを覚えるだけの生徒は,「この問題は何の公式を使う?」と聞いた際に,「これです」と即答します。しかし,その理由を尋ねると,「前に似た問題を解いたときにこの公式を使ったからです」と答えます。現状では,こうした生徒でも得点力(見かけの得点力)は高いのですが,今後テストの体制が変わった場合には,対応できなくなってしまう可能性もあると思います。つまり,大学側がこうした生徒を望まなくなり,生徒がどれだけ問題に対して考えているかを試すような試験になれば,パターンの暗記で乗り切っている生徒には対応が難しいでしょう。大学側がしっかりと考える力をもった研究者を求めているとしたら,入試問題の出題に大きな変化があってもおかしくないような気がします。

― 物理の醍醐味とはどんな点にあるとお考えですか?

  • インタビュー風景以前,小学生に算数を教えていた時には,「算数は将来役に立つのですか?」という質問を多く受けましたが,高校生に物理を教えていても「物理って将来役に立つのですか?」という質問をされることがあります。実はその時,物理を学習する意味というのを私自身考えたことがなく,即答できなかったのです。それを機に私は物理の授業で何を伝えたいのか考えたのですが,現在の私の考えは,
    「自然現象では,全ての物体に対して決められた法則が成り立つため現象を説明しやすく,問題を解くときにその公式を使う理由は自ずと決まる。自分がなぜその公式を使うのかしっかりと考えて説明できるように練習をすることで,将来自分が行うことに対してしっかりと理論的に説明する能力を身につけることができるようになる。 こうした力を一緒に身につけよう。」
    というものです。生徒には授業の中で伝えるようにしています。

聞き手:吉田 敦