HOME > 教育/入試情報 > 教育情報・教育インタビュー > 生徒の発する「サイレント・ヴォイス」とは? - 國井 丈士(現代文)

生徒の発する「サイレント・ヴォイス」とは? - 國井 丈士(現代文)

現代文講師  國井 丈士

― 生徒のモチベーションについて先生はどのようにお考えですか?

  • インタビュー風景まずは2つに分けることが大切です。集団のモチベーションが問題なのか、集団の中の個としてのモチベーションが問題なのか、それぞれに分けて考えないと失敗してしまうと思います。例えば集団全体が疲れた状態にある時などは少し休ませることも必要だと思います。人間の根底にあるモチベーションというのは生理的欲求(「食べたい」「眠りたい」「トイレに行きたい」など)ですので、授業中は生徒のこうしたモチベーションに教師がひとりで対峙しなければならないことは念頭に置く必要があるかもしれません。
    私の体感ですが、授業中だいたい10分ごとにモチベーションを高めるような話を入れていったとしても、これを1回の授業で3回も行うと大方の生徒は疲れてしまいます。このため、生徒の「休みたい」というモチベーションが高まったように感じた時には、例えば私が小説を朗読して生徒を少し休ませ、「勉強したい」という気持ちに向かわせるよう、うまくバランスを考えながら行っています。生徒の「休みたい」「眠りたい」という気持ちを「モチベーションが下がった」とは考えずに、「休みたい、眠りたいモチベーションの方が上がっている」と考えるようにしています。生理的欲求のモチベーションが上がったのであれば、少しの時間そちらを満たしてあげ、適切なタイミングで切り替えていくことが効果的です。勉強のモチベーションだけを上げるのは、かなりの技術が必要というか、不可能に近いものがありますので、まずは生理的なものを含んだ形での根底にあるモチベーションを把握した上で、指導していくことがポイントだと思います。

― 授業中気をつけていることなどはありますか?

  • 生徒に「どうせ今日の授業も同じだろ」と思わせないような展開をすることに気をつけています。毎回同じことを言って、同じような展開で授業を行っていると生徒はだれてきます。かといって毎回、同じようなパターンのサプライズをすると、今度はそれに慣れてきてサプライズしなくなってしまいます。生徒の表情を見ながら、授業に対するモチベーションが下がってきた頃に「解き方」の話を入れたり、話し方を工夫してサプライズを作ってみたりすることが集団のモチベーションを高める場合には大事になってくると思います。つまり、サプライズと言ってもバリエーションが大切だということです。
    モチベーションを高めるような寓話やたとえ話をしてから、すーっと授業に入っていく展開方法の他にも、「これから雑談をする/授業をする」などと最初に宣言をして、切れ目をはっきりさせる方法もあります。毎回同じパターンを繰り返すと生徒は飽きてくるため、こうした点には変化をつけて行っています。

― 生徒のモチベーションを高めるための寓話、たとえ話の話が出ましたが、具体的にどんなお話をされるのですか?

  • 一つ例を挙げます。伊藤整は「小説には苦痛がなければ小説でない」というようなことを言っています。これを単純に紹介するだけでなく、寓話にする場合には、例えばドラマで、私がサッカー部のキャプテンをしている。毎回得点を決めるヒーローだったら誰も興味を持たないので、アキレス腱を痛めて入院しなくてはいけません。入院しているところに女の子が手作りのお弁当を持って見舞いに来る、その子の家は貧乏でないとだめです。その子のライバルの女の子はお金持ちで、二人が私を取り合って争わなくてはいけません。このように、ストーリーの中に苦痛を入れてあげることが小説でありドラマである、という寓話のようなものを用いて興味をひいたりします。これは即興のストーリーですが、授業中にはだいたい3分程度で、1人何役かを演じることもあります。

― 授業に生かすために、先生が普段参考にされているものなどはありますか?

  • 私は落語も聞きますが、落語そのものを聞いて楽しんでいるのではありません。前座と真打の声のトーンを比べて研究したりします。若い落語家は力んでいるためか声が高い傾向にあります。落語の高い声、低い声それぞれに自分の声を「アエイオウ」などと、声のトーンを合わせたりし、これを小説教材の朗読時に生かします。
    また、落語で本題に入る時に「このへんで落語の幕が開くわけでございます」と言ってから入る展開のパターンと、まくらからそのまますーっと落語に入るパターンとがあります。すーっと入っていくと話が切れませんので、いつから落語に入ったか分からない。授業の時にも、まくらからすーっと授業に入った場合には、二つの感想が出てきます。「雑談が多かった」と「今日は面白かった」です。このように感想が二つに分かれるのは、どこから授業に入ったのかがはっきりしないからだと思います。この展開方法は生徒の疲れ具合などを考えて使うこともままあります。生徒が「勉強しよう」という気持ちにある時はすーっと授業に入ると「笑い話ばかりでだれていた」と思われてしまうことがありますので注意しています。
    またTEDなどを、プレゼンテーション時の身振りや立ち方の参考として見ることがあります。「この身振りは日本人には使えないなあ」「これなら少し変えれば使えるかな」などと考えて見ています。

― モチベーションに関して、現場の先生にワンポイントアドバイスなどはありますか?

  • インタビュー風景1つ目は生徒に対して媚びない(おべっかを使わない)ことです。生徒とは一定の距離を保ちながら、生徒を笑わせても、笑われるようなことはしないことが大切だと思います。若い先生によくありがちですが、おちゃらけをやってしまうと、生徒もこれを敏感に感じ取り、「この先生はこんなものか」と思われてしまうことがあります。少し上から生徒を見てあげることが大切だと思いますね。
    また、自分で授業がうまくいったと思っている時は意外とうまくいっておらず、自己満足しているだけのことがあります。うまくいった、生徒が喜んでくれた、と思う時ほど自分を戒めた方が良いかと思います。「アクティブ・ラーニング」で陥りやすいのは、こうした点だと思います。生徒たちが活発に討論するためうまくいったと感じやすいのですが、これは成績という餌がぶらさがっているから行っている可能性もあります。日本人はピークに達しないと発言しない国民であるような気がしますので、生徒のモチベーションを保ちながら、毎回活発な議論を行うことにはいつか限界が訪れてしまうのではないかと感じてしまいます。では教師が何をすべきかというと、生徒は目や体の動きで燃えるような心の訴えをすることがありますので、これを汲み取ってあげることです。これは日本語を使う日本人に対してアクティブ・ラーニングを成功させる鍵であると思います。
    例えば、授業は黙って聞いているおとなしい生徒だけれども、心の中で「いいこと言ってるな」と思っていたり、「それは違うのではないか」と思っている生徒の、声にならない声(私はこれを「サイレント・ヴォイス」と呼んでいます<英語ではinner voice>)を聞いて、適切なタイミングで「君はどう思う?」などと聞いてあげることが、生徒のモチベーションを高めることにつながると思います。よく、生徒の名簿をチェックしながら均等に当てていく先生もおりますが、「心の声を拾う問いかけ」が大切です。授業中静かだからと言ってテンションが低いわけではないという、こうした特徴は日本人特有だと思います。生徒の「サイレント・ヴォイス」に耳を傾けることが、授業の際にはとても大切だと思います。

聞き手:吉田 敦